音楽のダウンロード販売という切り口

初めに

先日このブログでも取り上げたホッテントリさっきamazonのCDランキングを見たが、本当に唖然としたに追記が加えられ、以下の補足記事が出た。
 お詫びしたい
 前回のエントリが不快感を与え、誤解を生む内容だったことへの詫びと、元増田が真に言いたかったことの再主張が主な内容だ。
 あと前回の増田はしばらく後に消されるらしいけど、できれば残しておいてほしい。改変ネタで茶化されたのは自業自得。とはいえ、特に笑える改変があったわけでもないし*1、反省してる元増田をこれ以上煽り返すのも酷なので、やめてあげたらいいかなと思った。
 それで話を元増田の再主張に戻すけど、今回の主張内容も概ね理解できる。理解できるけど賛同できるわけでもないので、一応自分の考えを整理しておこう。そして、この議論への一つの方向性を提示したい。

増田の主張の要点

  まず、元増田は機械を通した音源やインストゥルメンタルを否定せず、初音ミクを用いた音楽制作やニコニコ動画も悪いものだと思っていないことを確認した。続いて、主張のメインを見る。

 では俺が何を問題にしているかと言うと、音楽そのもの以外の部分で初音ミクのCDを売ろうとしている(と俺が感じた)こと、そして実際に売れてしまっていることだ。

 そのような売れ方をしてしまうと何が問題か。結論から言えば、質の高い音楽が減ってしまうことだ

 前回のエントリでは「買う側がおかしい」という論調のエントリだったけど、今回は「売る側が、音楽以外の部分でCDを売ろうと考え、それが成功してしまっている。それによって質の高い音楽が減ってしまう恐れがある」ということを主張しているようだ。*2

音楽を売買するということ

 続いて、増田のエントリの最後の方を読めばわかるように、元増田は音楽業界を変えるために、音楽を聴き、CDを買うという形で、質の高い音楽を制作している人たちを支援することを奨励している。良い物が売れる、良い物を作っている人にお金が流れてくるという構造を作ることによって、業界を健全化するという理想は、結構なことだ。
 ただ、ちょっと指摘したいのは、音楽の売買自体はそんなに美しいものじゃないし、その音楽売買の媒体がCDっていうのはどうなのよ、ということだ。
 確かに、音楽業界を支えるために聴き手ができる活動として、一番に考えられるのは、無料でできる「音楽を聴く」ことだ。だけど、それ以上の活動、お金が絡む経済活動は、完全完璧に綺麗なものではありえない。CDが売買される構造を美化しすぎじゃないか? 音楽の売買が起こる時には、それがどんなに素晴らしいものであれ、そのお金の流れにある程度の濁りとか淀みが含まれると思う。つまり、アーティストから聴き手に音楽が渡るまでの仕事に関わる人たちが得る中間マージンね。

CDという媒体、パッケージ

 ましてやCDという媒体なら、関わる人の数も膨大になるだろうことはわかるよね。良い機会だから、CDそのものについて、ちょっと考えてみた。
 結局のところ、CDって音の容れ物であって音そのものじゃないでしょ。さらに言えば音だけじゃなく、あらゆる情報を入れる容れ物だ。CDとは一つのパッケージであって、そこに含まれる情報は円盤に刻まれた音楽のみにとどまらず、ジャケットの画像、ブックレットの内容、その他特典などがあるよね。さらに「CDというパッケージ」が持つ意味を広義に取れば、話題性や時代性、流行なんかもCDに付随する情報だというのが自分の解釈だ。
 それらの情報を消費者に届けるためには、多くの人が必要になる。前回の増田へのブコメにも書いたけど、作詞作曲演奏ボーカルはもちろん、レコーディングやCDプレス、企画広告流通販売など、数え上げたらきりがない。当然、その人たちの仕事の対価が、CDの価格に反映される。数多くの人が関われば、中間マージンも増え、CDの価格も上がる。すると、聴き手は予算上、そう多くのCDは買えなくなる。消費者側の購買力の限界は増田も認めているとおりだ。
 だから僕は、

 まず、自分の根本的な考え方として、CDは、そこに入っている音のみで評価されて売れるべきものだと思っている。つまり、楽曲、歌唱、演奏などだ。

 この考えには賛成できない。だって明らかに音以外の要素がCDの価格に入っちゃってるもん。むしろ音以外の要素も買っていると思わないと、シングルに1000円、アルバムに3000円なんて出せない、というのが自分の実感。そういう意味で、増田の主張はちょっと潔癖すぎるかな。少なくとも音楽CDを売買するにあたって、一つのパッケージの中で音と音以外の要素を切り離すことはできないだろう

増田へのフォロー

 以上の文脈で増田の主張をフォローするなら、「仮にも音楽CDという名目で売る以上、切り離すとまではいかなくても、せめて音が主、それ以外の要素が従の関係であるべき」ということになるだろう。
 このべき論に、僕は普通に「諦めてくれ」と答える。広い音楽CD市場だもの、たまにはそういう音以外の要素をメインにしたものが売れることもある。音楽市場に、音をメインにしたものでないCDは売ってはいけないなんてルールがあるわけじゃない。増田から見れば「売れすぎ」なんだろうけど、それは売る側が一枚上手なんだよ。*3
 イレギュラーな売り方が主流になってしまわないかという不安は僕にもあるけど、例えるなら、食品市場における食玩みたいなもんだと思って受け入れた方が楽だと思うよ。食玩なんて誰が見たっておもちゃが主でお菓子が従だけど、スーパーのお菓子売り場に並べてあるでしょ。それを指して「食品がメインであるべき」「食玩が売れすぎると良質なお菓子が売れなくなる」って言われたら「いやちょっと待ってよ」ってなるよね。

音楽のダウンロード販売

 だからさ、増田はこの議論を始めるにあたって、CD販売よりはダウンロード販売を例に出した方がまだ良かったと思う。mp3等の音楽ファイルなら、前述した音以外の諸要素は見た目上かなり削ぎ落とされてる。実際はジャケット画像などの諸情報はファイルに埋め込まれてるし、時代性や流行から自由になれるわけでもない。だけど少なくとも、CDよりは増田のいう「音そのもの」に近い形だろう。
 iTunes Music Storeなら、アルバムというパッケージからも解放されて、1曲から購入することができる。おそらくこれが音楽を売買する上でのシンプルな最小単位だろう。僕はこの単曲販売が本当に素晴らしいと思う。前述のように、CDは高い。いくら新しく良質な音楽を作っているアーティストを見つけたとしても、試聴から購入に気安く移れない。その点、1曲150円などのダウンロード販売の方が、気になる曲を買うことへの抵抗が少ない。「外れ」を引いたときのリスクも減る。増田の言うようなモチベーションの面でも、3000円のCDアルバムを買うお金で、1曲150円として20アーティストに「買ってもらった、聴いてもらった」という喜びを与えることができるよ。
 さらに、1曲あたりのアーティストに流れるお金も、CDより多いみたい。ソースは以下の記事。
音楽ダウンロードの利益配分率は? | ZIBUN-NEWS(自分ニュース) - 喜怒哀楽のニュースサイト
 消費者の購買力やアーティストのモチベーション、配分される利益などを問題にするなら、ダウンロード販売という形態を議論する価値は高いだろう。音楽業界議論を進める方向性として(今さら)ダウンロード販売を示したところで、このエントリを終わりにしたい。

補足と雑感

 このエントリは、単に「元増田の文脈なら、議論の材料をCDにするのは悪手じゃね?」というおせっかいで書いたものだけど、自分の考えも整理されたし、書いた価値はあったな。
 元増田は割とアーティスト志向な文章だったので、「いや、ことCDにおいてそれはないわ。CDはいろんな情報を持つパッケージだからアーティスト以外の人もたくさん関わる。お金はその裏方の人たちにも回さないといけないし、裏方の人が張り切りすぎて音以外がメインのCDが売れることもあるけど、そういう市場だから仕方ない。できるだけアーティストにお金が行くような仕組みなら、CDよりダウンロードだろ」みたいなことが言いたかった。
 CD販売とダウンロード販売の中間の価格帯に中古CD販売があるけど、元増田が理想とするアーティストへのお金の流れがないから言及しなかった。*4Vocaloid云々は価値観の問題に踏み込んじゃいそうだったので、これもあえて言及は避けた。
 自分の音楽購入の現状としては、発売日に新品CDを買うアーティストはゆずとサンボマスターくらいで、ミスチルT.M.Revolutionなんかは罪悪感を持ちつつ古本市場ブックオフ、ツタヤの中古に出回るのを待つことが多い。あとはiTunes Music Store銀河鉄道999の主題歌を単曲購入した後にPCのデータが飛んで泣いたり、Web上のレビューを見て新しいアーティストに出会ったり、試聴して買ったり買わなかったり、という感じ。
 ちなみにこのエントリを書くのに5時間くらいかかってしまった。アウトラインをもうちょっと固めてからキーボード打てば良かったと反省している。

*1:この動画は面白かった→【本当に唖然とした】初音ミクよ。【増田はてな】‐ニコニコ動画(ββ)

*2:初音ミクのCDを売ろうとしている」の主語がないせいで、批判対象がぼやけている感じがする。CDを出してるレーベルなのか、曲の制作者なのか、あるいはその両方か。「売れてしまっていること」は現象なので明確な消費者批判ではないと解釈する。

*3:これも増田の言葉でいうと「卑怯」ということになってしまうけど、物は言い様だな。

*4:自分は中高生の時にかなり助けてもらったけどね。初めて買ったCDはゆずの「ゆずマンの夏」で、中二の時に古本市場で購入したものだ。アホほどリピートして聴いていた。