ゲーム「ロストカラーズ」 感想

そんなわけで。自転車創業「ロストカラーズ」をクリアしたのでややネタバレ気味の感想を書くよ。
プレイ時間は11時間ほどだった。これは本作の特徴であるANOS(Advanced Novel Operation System)に「あの、素晴らしい  をもう一度/再装版」で慣れていたところが大きい。「あのすば」再装版の方が本作よりも後に制作されていて、遡行した順番でプレイしたために使い心地が若干退化してしまった。もっとも、基本的な使用方法は同じなので中盤まではスムーズに記憶管理からシナリオを分岐させていくことができた。
ゲーム攻略にあたっては、やはり「行間を読む」という行為が必要だった。テキスト、ビジュアル、サウンドに対して神経を張り巡らせることで新しい分岐が浮かび上がってくる素敵仕様だ。画面は「あのすば」と同じく良く動き、演出も過剰でない程度によく働いているので観ていて飽きない。音楽は何と言っても鷲崎健によるOP、EDのギターが印象的だった。特にOPのスライド音はやたらと耳に残る。
難を言えば、出先で覚えた多くの記憶は一旦本拠地に戻ってから調べる必要があるために、「あのすば」に比べて踏まなければならない手順がかなり多くなっているのがしんどかった。調べ物をする時にはミドリの歌を始めとした楽しいテキストが読めるのでつまらなくはないけどね。かざみみかぜ。さんのテキストとは相性がいいらしく、シナリオの随所で笑ってしまった。
とはいえ、本作はひたすらに楽しいだけのゲームではない。登場人物は皆、悲しみや憎しみを抱えながら生きている。特に多層立体的な物語を読み解いていった末に辿り着いた真実は文字通り"色を失う"ようなものだった。
クリックしてテキストを進めるたびにキャラクターに愛着が湧く、ということはノベル形式のゲームにおいて広く言えると思う。「あのすば」と同じく、作中の大部分の時間を主人公・レアルがヒロイン・スフライトと共に行動し続けるこの作品ではなおさらだ。最初は落ち着いた印象を受けるスフライトが、後になってレアルの前でクールになりきれず感情をあらわにしてしまうところなどはとてもかわいい。僕も、気付けば彼女に対して他愛もない絆を感じていた。
では、それまで読んできたテキスト(ビジュアル)の価値が転倒した時に、なお彼女のことを想うことができるか。共に積み重ねてきた彼女との思い出に疑義が生じた時に、どのような選択を取るか。端的に、クリックを開始する以前の彼女を、信じることができるか。本作の終盤ではそのような問題が提示されている。そして、レアルが選び取った結末は価値のあるものだったと僕は思う。
ミドリがレアル/プレイヤーに対して暗喩的に告げたとおり、このゲームにおいては目的、あるいは結末よりもそこに至るまでの過程にこそ実りがある。そして誰もが、実りを得るとともに何かを失っていく。
ため息が出るような物語の終わりを見届け、ゲームエンジンが自動終了しても、僕はいつかまたその過程を、旅を、繰り返したいと思う。今度は、手を繋げるといいなあ。色のない世界で、ただ陰影だけをまとった少女と。