【doujin24】HAtaさんと樹原新さんの対話に見る「朝まで生討論」の問題

Ver 1.01(2010-09-30:5:00)

樹原さんからの指摘を鑑みてHAtaさんのつぶやきに注釈を入れた

doujin24と「朝まで生討論」

そんなわけで。
去る9月18日、19日に「doujin24」という同人ゲームイベントが開催されました。そのコンテンツの一つとして「朝まで生討論」が行われ、Ustreamで配信されていました。録画ファイルは「AI(エーアイ)は世界を変える!同人ゲームUST24」 on USTREAM: 同人ゲームとかすきだから!.のdoujin24_3、doujin24_4から観ることができます。
討論会の内容については、放送中・放送終了後を通してUstチャットやTwitterハッシュタグ「#doujin24」で議論が交わされました。各自のブログやニコニコ生放送で感想が発信されることもありました。

討論会後のディスコミュニケーション

討論会の内容・進行については確かに議論の余地があります。しかし、討論会を振り返って議論するにあたって、一部のパネリスト・視聴者の間に発生しているディスコミュニケーションはいただけません。要は討論会のあり方について意見の食い違いがあり、そこから誤解や不和が生まれていることについて、自分はよく思っていないということです。

本エントリの目的

これはdoujin24の一視聴者だった自分として本当に残念なことであります。そこで本エントリでは、今後の円滑な議論と類似イベントの発展のために、上記のディスコミュニケーションにおける問題点(のいくつか)を整理することにしました。
具体的には、パネリストであるHAtaさん*1([twitter:@hatakoma])と視聴者である樹原新さん*2([twitter:@itsukiharashin])がTwitterで交わした会話や樹原さんのニコニコ生放送での主張を取り上げ、これを詳細に見ていきます。そこから、「朝まで生討論」に対する各人の意識の違いについて考えてみたいと思います。*3
念のために書いておくと、パネリスト-視聴者という対立構図がこのディスコミュニケーションの全てではありません。同様の意見の食い違いはパネリスト間、視聴者間でも起こっています。そこで問題になるのは、同人ゲーム制作者-非制作者の対立構図であります。
ちなみに、Twitter上での二者間のやり取りは、Togetter - 「「同人」の定義とdoujin24の功罪と小松菜屋」においても見られます。

筆者(highcampus)について

同人ゲームについては購入・プレイ履歴があります。動的ゲームも静的ゲームも経験済みです。作品タイトルを挙げるなら、「東方Project」、「BattleMoonWars銀」、「僕と君の夏休み」、「ナルキッソス」などがあります。
これまで同人ゲーム制作に携わったことはなく、これから(数年単位で考えて)関わる予定もありません。多少の興味はあります。
doujin24のことはTwitterで知り、同人ゲームへの関心から視聴しました。討論会が30分過ぎたあたりから視聴を開始し、UstチャットやTwitter上でのコメントはあまりしませんでした。後に録画配信で討論会冒頭部分も視聴しました。

HAtaさんと樹原新さんの対話に見る誤解と不和

結論から言うと、今回の対話におけるディスコミュニケーションの要因は、総じて樹原さんの方にあると考えています。そこで、一つ一つの発言にツッコミを入れるという古典的な手法を採りつつ、誤解や不和の構図を探っていきます。

→これは、「『同人』の定義」から「討論会の内容」への意図的な話題のすり替え+討論会パネリストだった新清士さんと彼を「先生」と呼ぶHAtaさんに対する当てこすりです。
→ニコ生では「相手が噛み付いてきた」と言っていますけど、先に議論から喧嘩に誘導しているのは樹原さんですね。
→この時点で今回の議論における問題点が出ています。
→つまり、「あの討論会がどういう場だったか(何を目的とした討論であるか、どのような人を視聴者層として考えているか)」という一点において、樹原さんとHAtaさんの間に認識の違いがある、ということが問題なんですね。
→そして、この認識の違いは結局のところ立場の違いであり、樹原さんの主張は(元同人制作者であり現商業制作者であるという立場からの)ポジショントークで形成されています。このことについては後に詳述します。
→もちろんポジショントークの全てが悪いわけではありません。しかし、それをやるなら最低限自分の発言がポジショントークであると自覚すること、それが他人のポジショントークで相対化されるのを認めること(他人のポジショントークに耳を傾けること)が必要だと思います。
だから、樹原さんとHAtaさんが議論を行うとしたら、「あの討論会がどういう場だったか」ということを、お互いの立場を尊重しつつ話し合うのがベターなやり方だった、というのが自分の見解です。
→しかし、樹原さんがこの後やったことは一方的なポジショントークの押しつけでした。
→樹原さんが言ってることは一面的に全て正しく筋が通っています。
→それは当然なんですね。本来は議論の核となるであろう部分の解を自分で決定し*4、それを自明のものとしているからです。前提が正しいとされている以上、そこから導き出される意見はどれも正しくなります。
→"理路整然"という部分は以降スルーされます。
→この"声が届かない"というのは、討論会終了後に以下のような樹原さんの質問があり、それに対して答えが返ってこなかった事を指しています。

→しかし、新清士さんは

"全部は返事しませんよw"

と書いているし(別の方への発言かもしれませんが)、そもそも、現在ライター系の仕事をされていてゲームの制作者ではない人に「同人ゲームを完成させた時の喜び」を答えさせるというのが無理難題ですね。答えがなくても致し方ありません。*5
→今回まとめたこのTwitter上の対話は、全体としてHAtaさんと樹原さんとのやり取りなんですが、樹原さんは新清士さんに反感を持っていて*6、その反感を元に新清士さんのフォロワー(樹原さん曰く「信者」)としてのHAtaさんにも反感を露わにするという構図があります。

→これは部分的に同意できますね。何をもって成功というのかははっきりさせた方がいいです。
→HAtaさんもそこはスルーしてますし。少なくとも討論会部分が大成功と言えなかったのは確かですね。
→(2010-09-30追記:)否定的な感想が存在することを無視しているという意見もあります。
→言葉に刺がありすぎですが、怒りに我を忘れてしまったんだという好意的解釈で乗り切ります。
→このあたりから、樹原さんはニコニコ生放送を開始し、今回の対話について話をします。
エロゲ雑談っぽくないの。 - ニコニコ生放送
→つまり、以降の樹原さんのつぶやきは放送中に書かれたものであるということです。放送内容については章を改めてまとめます。
→要は、新清士さん(とか天野年朗さんといったパネリスト)が(樹原さんが思う討論会のあるべき形に照らし合わせて)ふさわしくない話をしていた。新清士さんの方に非があるのは自明であり、よって対話する気はない、ということですね。
→この部分も前提が正しければある程度正しさが保証されるんですが、その前提の正しさを疑っていないところがいけません。認識が独善的すぎます。
→もっともな反応ですね。自分もTLを読んでいていきなり出てきた「嫌がらせ」という言葉の意味が分かりませんでした。
→ギリギリ「たとえ」であることは分かります。
→しかし、一つのつぶやきの中に本論と例えを混在させていることと、本論の文章に問題があることから分かりづらくなってるんですよね。
→で、本論から例えを分離させることはしているんですけど、これでもまだ分かりづらいです。結局「誰が、誰に」の部分はスルーしてますし。HAtaさんが言いたかったのは「主語や目的語をはっきり書いて下さい」ということですね。
→この部分は、書き直しをせずにもう一度同じ文面をコピペするという手抜きをした樹原さんの方に誤解の原因があると思います。
→結局樹原さんはニコ生上で「何言われてもいい。『逃げた』でいいや。構ってられない」と発言し、Twitter上での対話を打ち切る。
→1:10あたりに樹原さんがニコ生の1枠目を放送終了し、以後別の話題で2時過ぎまで放送します。

樹原さんのニコ生まとめ

タイムシフトが聞けない人のために、樹原さんがニコニコ生放送において主張していた意見をまとめます。そして、先ほどと同様に一つ一つ自分のコメントを差し挟んでいきます。
エロゲ雑談っぽくないの。 - ニコニコ生放送

討論会の主旨
  • (討論会の主旨として)同人ゲームの問題を提起したところで誰が解決するのか?
    • 誰かに言われて(問題解決を)やるのは同人活動の趣旨に反する
    • 個々人の問題を解決するので精一杯だし、視聴者には個々人の問題を解決したいと思ってdoujin24、「朝まで生討論」を見に来ている人が多いはず。
    • 同人界の問題を話されても自分達の問題すら解決できない人たちに何ができるというのか?

今回の議論の大前提にして本質ですね。樹原さんの各論の主張は全てこの前提が正しいものであるとして語られています。
樹原さんの主張を要約すると、「doujin24はイベント全体として同人ゲーム制作者を増やしたいという目標を掲げている。だから討論会も、同人ゲーム制作者とその予備軍の切実で現在的・個別的な問題の解決に役立つものでなければならない」ということで、ひいては「このような観点から、非ゲーム制作者である新清士さんと天野年朗さんは呼ぶべきではなかった」となるわけです。この前提部分の主張については大いに疑問があります。
確かに、doujin24の公式サイトには以下のような記述がされています。

このイベントでお金を集めたり、感動させたりってのは出来ないかもしれないけれど、面白いと思ったことを懸命に取り組んでる人たちがいて、そうして出来たものから「これなら自分でも作れるかも」という創作のムーブメントが起こせれば幸いです。

doujin24 ◆ 開催にあたって

イベント全体として「同人ゲームを作る人が増えたらいいね」と言っていることは間違いありません。しかし、こと討論会に及んでは、単にそれだけを目的としているわけではなかったでしょう。

今回の討論会では「そもそも同人ゲームについて何が問題なのか」という論点を明確にすること、
その事こそがテーマとして相応しいのではないのか?と思った次第です。
このような考えのもとに、

「同人ゲーム、その可能性と限界 〜何が問題なのか」

と題しまして、

同人ゲームの存在意義や問題意識のあぶり出し、論点整理を目標にする事を提案いたします。

その上で、討論を四部構成にして、それぞれ

  • 市場論
  • 経営論
  • 技術論
  • 内容論

と分けて、それぞれについて論点を提示する事を目標にしたいと思っています。

doujin24 ◆ DAY 18 朝まで生討論

このように、討論会のページには討論テーマがわりと大きな話であることが明記されていますよね。同人ゲーム界全体を、様々な観点から広く語ることが意識されています。もちろん、討論会においてもイベントの主旨である「創作のムーブメントを起こす」ことはそれなりに重視されるべきです。しかし、せっかくの貴重な機会として設けられた討論が制作者・制作者予備軍というポジションにいる人たちだけのものになるというのも問題ではないでしょうか。
樹原さんは「今日明日のお金に困っている人が集まって見ている中で銀行から巨大な額お金を借りる話をしてもしょうがない」といった主旨の例え話をニコ生で言っておられました。つまり目先のことについて話そうよ、ということですが、主観的にその考えは近視眼的で討論会としてはふさわしくないと思います。どちらかというと講習会という名前でやった方が良さそうですし、そういった内容は二日目のセミナーにおいてかなりの部分達成されているというのが自分の見解です。セミナーの内容については樹原さんも高く評価していたのでこのあたりは同意していただけるかと思います。*7
樹原さんの主張の大前提がある程度相対化されたところで、ニコ生での発言から各論を拾ってコメントしておきます。

新清士さんについて
  • IGDA新清士さんについて
    • 同人ゲームを買ってないしやってない人(が討論会に出てくるべきではない)
      • ゲーム制作経験がある人が出てほしい
    • IGDAで研究していることの99%を知らなくても同人ゲームを作れたし、商業活動までステップアップできた
    • 同人ゲームを作ったときの喜びについて語っていただきたい(みんなが求めていることだから)

まずは新清士さんの話です。これも筋は通っているので前提が正しければ一定の正しさを持つんですが、その前提に疑義があることは前述した通りです。
既述のように、パネリストを制作者系で固めるとどうしても講習会っぽくなりますから、同人界を広く語るという討論会のテーマに則るなら外部的な視点が必要になってきます。その筋で新清士さんや天野年朗さん、アルジャーノンさんといったパネリストも必要だったと思います。ただ、放送中には少しパネリストが多いと感じましたし、マイクを持つ時間はなるべく均等な方が良いと思いました。
討論会配信中から樹原さんが何度も言っている「こんなこと知らなくても同人ゲームは作れる」というのは確かにその通りです。しかし、その手の知識が不必要だという言説が正統性を持つのは前提が成り立っている時だけですね。樹原さんはニコ生で「実用的かどうか」という観点から知識を分けていましたけれども、「広く語る」という前提から相対的に見ると実用的な知識しか出ないというのは議論として浅いです。端的に、ある知識を知らずにゲームが作れることとその知識の大切さは関係ありません。

討論会の議題について
  • マーケティングとマネジメントの話から始まる
    • (作りたい人ではなく)儲けたい人を重視しているように思われる
    • 同人ゲーム制作のハードルが高く感じる
      • イベント全体の「同人ゲーム創作を目指す人を増やしたい」という目的と矛盾している
  • 「作りたい」から「どうやって作るか」という段階においての話が聞きたかった
    • Geekdrumsさんの話(サークルのメンバー集めなどについて)を打ち切った
  • くだらない話が多かった
    • 実用的なことを求めて来てる人を無視した
    • オリジナルが弱い
    • ノベルゲーム枯れた技術
  • 討論会の着地点のなさ

ここに列挙された各論全般にも一定の説得力があります。ただしそれは前提が成り立っている時だけです、というのは繰り返し述べたのでもう説明不要ですね。
一つつっこんでおくなら「ノベルゲームは枯れた技術」云々の件は討論会中にアルジャーノンさんも語気を荒げて反論していましたけど、司会の本条さんが「いや、誰もそういうことは言ってなくて……」と誤解であることを説かれていました。褒め言葉ではないかもしれないですが、少なくともノベルゲームをけなしているわけではないことが討論会の中で明らかになってるわけです。いつまでも引きずることではありませんね。

まとめ
  • doujin24「朝まで生討論」は様々な立場の人が観ていた
    • ある立場(ここでは樹原さんのような制作者)から見ると、思っていた討論会の姿とは違うものだった
  • 「あの討論会がどういう場だったか(何を目的とした討論であるか、どのような人を視聴者層として考えているか)」という前提に対する認識がポイント
  • 今後の議論、ひいては類似イベントの発展のためには
    • 自分の主張(前提)を絶対のものとして考えず、相手の立場を尊重して冷静に話し合うことが必要
樹原さんについて思うところ

総じて、樹原さんのTwitterおよびニコ生での発言は感情的すぎます。主張内容は今後同様のイベントを行う上で考慮されてしかるべきです。しかし、不満を感情的に表明するだけでは信頼という最も大切なものを失うことになります。
今回は形として樹原さんだけをやり玉にあげる形になって恐縮です。HAtaさんと樹原さんの間に起こったようなコミュニケーションの失敗と同様のことが他所でも散見される状況に一石を投じたいと思い、このエントリを書きました。樹原さんに対する批判には、同様に討論会に対して一方的なポジショントークを展開している人への批判も含まれていると解釈していただければ幸いです。知らない間柄ではない樹原さんについてこのような文章を書くのは自分としても心苦しいですが、逆に知らない人ならこのエントリを書くこともなかったでしょう。目の前で知っている人が対話不全を起こしているのが我慢ならなかった、というのがこのエントリを書いた動機の一つであります。
アルジャーノンさんや樹原さん達が近い将来行う(かもしれない)というノベルゲームの討論会にも興味はありますし、Ustで配信されたら観てみたいと思います。自分としてもTwitterでの告知など、できる限りの応援はしたいですね。その際には、doujin24の討論会後に発生したようなディスコミュニケーションが生まれないような配慮が必要でしょう。このエントリも含めて、今回の経験が活かされることを願います。

doujin24について思うところ

doujin24自体の成功は疑うところがないと思います。自分が主に観ていたのは1日目の討論会と2日目のセミナーですが、他のパートも盛況だったようですし、ライブライティングで生まれた作品を読むのも楽しかったです。Twitterなどでは討論会についての不満が伝播し、イメージが上書きされてしまうことがあるのが残念ですが、討論会だけがメインコンテンツとして盛り上がったわけではないことを自分からも再度主張しておきます。

「朝まで生討論」について思うところ

自分はユーザーとしてあの討論会を視聴していました。同人ゲーム界の深さや豊かさが伝わったという意味で、個人的にはいろんな方の同人ゲームに関する意見が聞けたので満足しています。同人ゲーム界の深さ、豊かさといったものが伝わってきました。そういう意味で、「大成功、成功、失敗、大失敗」の四つで分けるなら成功だと思います。
今後の課題としては、パネリストの選定、討論会のスタンスをよりはっきりと示すことなどがあるでしょうか。例えば、「儲けたい」からゲーム制作を始めて「作りたい」にシフトした人などを呼ぶと「作りたい」から始めた制作者との差異が分かって面白いんじゃないかと思います。
また同様のイベントがあれば一視聴者として参加してみたいですね。
あと、今回の「朝まで生討論」で出てきた問題意識については、「PLANETS vol.7」というカルチャー誌に載っているZUNさんと竜騎士07さんの対談で一つの答え、あるいはヒントが出ていると思います。討論会終了後にすぐ読んでみたところ、オリジナリティーについてや創作のスタンス、ゲームが持つ可能性など示唆に富んだ話があって楽しめました。討論会を観ていた人には一読をお薦めします。

*1:同人サークルで活動中

*2:元同人ゲーム制作者、現在商業で活動中

*3:ちなみに、自分はHAtaさんとは関わりがありません。樹原さんとはTwitterで相互フォローであり、ニコニコ生放送のコミュニティに入っており、樹原さんが関わった商業作品「Distance」を購入・プレイしています。有り体に言ってクリエイターとファンの関係であります

*4:要約すると「あの討論会は同人制作を目指す人の悩みを解決するためにあるべき」というのが樹原さんの弁です

*5:それを分かった上で皮肉としてやってるならなお悪いです

*6:IGDA絡みで以前からよく思っていなかったことがニコ生等の発言から示唆されます

*7:念のために書いておくと、ここで大切なことは樹原さんの主張が否定されたことではなく相対化されたことです。こういう意見もあるよ、ということですね