ゲーム「リトルバスターズ!エクスタシー」 回想

そんなわけで。eichiさんがリトルバスターズ!の再プレイ感想を書いていたので、僕も触発されてリトルバスターズ!エクスタシー(以下リトバスEX)について何か書いておこうと思う。といっても全編を再プレイしている時間がないので、回想という形で以前からTwitterやニコ生で口にしていることをまとめることとする。
いつもこのブログで書いている感想やレビューは全体を俯瞰することを意識しているから、たまには局所的に自分が気に入った部分を取り上げて語るのも面白いだろう。ネタバレはありで。

バッドエンドのテキスト

リトバスEXのバッドエンドは、そのテキストが美しいことで印象に残っている。

僕はひとり机に向かって、宿題をしている。
静かな夜だ。
みんなは何をしているんだろう。
僕だけをここに残して、どこかに出かけて何か楽しいことをしているんじゃないか。
そのぐらい静かだった。

この寂寥感が堪らない。バッドエンドとは言っても、主人公の身に何か悪いことが降りかかって物語が終わるのではない。むしろ何も起こらなかったからこそ物語は静かに終わっていく。
一抹の寂しさを感じる理樹の側には、真人がいてくれる。真人が筋トレに伴って出す呼吸音は理樹にリアルを感じさせ、理樹は今し方の気持ちを妄想だと思ってしまう。

その現実が僕にとって、すごく居心地がいい。

理樹はこの上ない充足感を得て、この時間がいつまでも続くことを祈る。途端にナルコレプシーによる眠りに誘われ、理樹は意識を落とす。最後に一つの疑問を抱きながら。

そういえば…
僕の『夢』はどこにいってしまったんだろう?

夢が失われている時、現実もまた失われているのだろうか。先ほどリアルに感じたそれは、果たして本当に現実だったのだろうか。
このバッドエンドテキストは、リトバスEXをプレイする上で何度も目にすることになる。*1その度に、僕の心中には複雑な感情が生まれてくる。

鈴ルートにおける恭介の声

リトバスEXで一番泣いた場面は、ご多分に漏れずRefrainのアレだった。では二番目は何かというと、鈴ルートで理樹が恭介に電話を掛けて、理樹と鈴が付き合うことを報告するシーンである。
恭介との会話は途中までBGMもなく、電話越しであるために立ち絵もない状態で展開する。そのため、自然と恭介の声(テキスト)に意識が向く。そのこともこの場面を印象的にさせている一因だろう。

恭介『…はい』
恭介の声。
理樹「きょ、恭介?」
声が…裏返る。
恭介『どうした、理樹』
落ち着け…落ち着け…。
理樹「あの…話したいことがあるんだ、今いい?」
恭介『ああ、なんだ?』
理樹「えっと…」
理樹「直接会って話がしたいんだけど…」
恭介『どうしたんだ? 改まって』
理樹「いや、それなりの理由が…」
恭介『彼女でもできたか?』
う…図星。
恭介『そうか、よかったじゃないか』
理樹「それが、相手が…」
恭介『鈴だろ?』
(BGM:BOYS DON'T CRY〜intro only〜)
理樹「え…」
恭介『鈴じゃないのか?』
なんでいつもそう…なんでも知ってるんだろう…。
理樹「いや、そうです…」
恭介『だろうな』
恭介『そいつは俺も嬉しいよ』
理樹「え…?」
恭介『俺はさ…』
恭介『そうなったらいいなって、ずっと思ってたんだよ』
そんなこと…まったく…ぜんぜん…知らなかった。
理樹「そうだったの…」
恭介『ああ』
恭介『だから、これからもふたり仲良くな』
理樹「うん…」
理樹「ありがとう…」
僕は泣きそうだった。
ただ、ずっと見守っててくれた恭介に、礼を言い続けた。

最初は、妹と恋仲になったことをその兄に報告するという気恥ずかしさや負い目が理樹をしどろもどろにさせている。恭介はいつもの完璧人間ぶりを遺憾なく発揮し、"『彼女でもできたか?』"と理樹が電話した理由を言い当てる。さらに恭介は、その相手が鈴であることまで看破する。理樹は驚いて言葉に詰まる。恭介は"そうなったらいいなって、ずっと思って"理樹と鈴を見守っていた。
それを知った時にこの胸に生まれる感情! 僕は、自分の観測範囲外で誰かの愛情や思いやりが自分を包んでいた・支えていたといった展開にとても弱い。そして、Keyは意図的にこのような展開から(僕の心中に)感動を発生させている。それは、理樹と恭介との会話をBGMなしの状態で開始し、恭介の"『鈴だろ?』"という台詞と共にBGM「BOYS DON'T CRY〜intro only〜」を流していることからも自明である。*2
あともう一つ、この会話シーンについて味わい深いところがある。全編通してプレイしてからもう一回この場面に立ち戻ると、今度は恭介側の気持ちも推し量ることができる。その時、"『そいつは俺も嬉しいよ』『俺はさ…』『そうなったらいいなって、ずっと思ってたんだよ』『だから、これからもふたり仲良くな』"といった一連の台詞は一周目(理樹の視点から見た場合)と全く違った意味を持つ。果たして恭介は、どれだけ"嬉し"かったんだろう。どれだけの時間"そうなったらいいなって、ずっと思"い続け、どれだけ先の未来を想って"これからもふたり仲良くな"と言ったのだろうか。このような内面の読み込みは趣深く、僕がリトバスEXをたびたび再プレイしたくなる理由の一つである。

「これからは強く生きる/逃げる」という選択肢

悲劇的な鈴ルート2周目を終えると、以下のような選択肢が現れる。文脈を示すために選択肢以前の文章もセットで引用しよう。

そう、僕はずっと昔にも同じように大事な人を失って、殻に閉じこもった…。
また同じように現実から逃げるのか、僕は…。
そんな僕は嫌だ…。
弱いままの僕だ…。
<選択肢>
→これからは強く生きる
→逃げる

ここで"これからは強く生きる"を選択すると、タイトル画面に戻った上でRefrainルートが開放される。対して、"逃げる"を選んだ場合には、ただ単にタイトル画面に戻されるだけだ。つまりゲームを進めるという観点からすると、"これからは強く生きる"が「正解」の選択肢、"逃げる"が「不正解(バッドエンド・ゲームオーバー)」の選択肢となる。
なるのだが、僕はこの"逃げる"は単なる「不正解」に留まらず、*3むしろリトバスEXの中で最も重要な選択肢のうちの一つだと思っている。
ここで注目したのは、"逃げる"という選択肢がプレイヤーにループを続けることの自由を保障しているということだ。Keyの中で誰がこの選択肢を設計したのか、僕は知らない。*4ただ、これほどプレイヤーに優しい選択肢はないと思う。「"これからは強く生きる"ことを決心した理樹」にプレイヤーがシンクロするまで、つまりプレイヤーが強くなるまで、世界は待ってくれる。プレイヤーが前に進みたくなければ、"逃げる"を選んでもう一度(何度でも)ループを繰り返すことができる。*5
重要なことは、何度"逃げる"を選んでループしてもいいから、たった一度でも"これからは強く生きる"ことを選択することである。選んだ後には、再びその気持ちを忘れてしまってもいい。何故なら、いつかの「僕」が思い出してくれるからだ。Refrainルートのテキストにはこうある。

恭介「…理樹」
恭介「誓ったんだろう? 強く生きると」
理樹「え…いつ…」
恭介「思い出せずとも、おまえは誓ったんだ」
恭介「今のおまえが忘れてようが、いつかのおまえは強く生きることを誓い…」
恭介「そしてここまでやってきた」
恭介「おまえは誓い通りに、ここまで強さを積み重ねてきたんだ」
ああ…どうしてだろう…。
そう誓った日が確かにあった気がする…。
恭介「だから、ここまで来たんだろう?」
そうだったんだ…。
僕は自分の意志でここまできたんだ…。

一度でも誓えば、それがいつかの自分の力になる。だから、「いま、ここ」で心から強く想うことが大切なのだ。

Refrainルートで現れる恭介と理樹・鈴の関係に触れながらこのエントリを締めていこう。
リトバスEXから僕が読み取ったテーマは「内にこもってないで外に出ようぜ」ってことなんだよね。浅い理解かもしれないけど、そういう見方でプレイしていくと、恭介が「引きこもりの子供を外に出そう(自立させよう)とする親」にしか見えなくなる。この倒錯は、物語の中で恭介が理樹を見る視線の中に、「鈴と共に成長させ、二人をつがいにする」という意志を感じることで生まれている。その意志がはっきりと表れているのが、前述した理樹と恭介の会話シーンである。
何より、恭介が鈴の兄であるという点。この一点が、理樹の親友として描かれている謙吾・真人と恭介を隔てている。さらに言うと、恭介は単なる親友or兄以上の役割を果たしている。端的に、「鈴と共に成長させ、二人をつがいにする」などということは親友や兄の役目を超えている。
恭介が理樹に抱く感情は、極めて家族的な愛情、それも親が子に注ぐような保護者としてのそれに近いと僕は読み取った。理樹の両親が事故死して不在であり、鈴(と恭介)の両親の存在がぼやけていることも、恭介が二人の親代わりという位置に立って二人の成長を促すという構図を補強している。*6
こうしてみると、リトバスEXの中で僕の印象に残った場面というのは、鈴ルート→Refrainという本筋における「ループによる成長とそれを見守る家族的・保護者的存在」に絡んでいることが改めて分かった。今後リトバスEXについて考える際には、この方向を深める感じでいきたい。その他の個別ルート*7についてはまた別の機会に書くということで、今回はこれで筆を置こう。

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*1:リトバスEXは、攻略情報を知らない場合にはそこそこの難しさがある

*2:この曲の魅力をどう表せばいいのか分からないけれど、とりあえずここでは「神秘的な温かさ」としておこう。傍証的に、謙吾や真人に同様の報告を行う場面のBGMは楽しげなものであることも記しておく。

*3:バッドエンド・ゲームオーバーとは言うものの、リトバスEXにおいてはタイトル画面に戻ることは新たなループの始まりをも意味しているので、コンプリートするまでは「終わり」よりも「区切り」という方が感覚として近い

*4:雑誌等で明言されているのであれば、詳細情報を希望するので連絡していただきたい

*5:現実世界はこのように自分の決心を待ってくれないので(端的に、現実世界はループしていない(という一回性を認識した上で社会は動いている)から)、このような選択肢の設置を「(現実と比して)甘い」と切り捨てることもできるだろう。しかし、僕はこのような選択肢をゲームならではの体験として肯定的に捉えている

*6:もちろん恭介→理樹の感情にはある程度の友情も含まれているだろうし、理樹→恭介の感情は子→親の感情には至っておらず、あくまで親友or鈴の兄として最後まで接していたように思う(Refrainルート終盤で理樹が恭介に手をさしのべるシーンなど)。それこそ「親の心子知らず」ということか。

*7:「来ヶ谷さんのおっぱいは最高だ!」的な意味で唯湖ルート、水平線って素晴らしいよね的な意味で美魚ルート・クドルートとかが好き