ゲーム「プリンセスX」 感想

1 序

プリンセスX〜僕の許嫁はモンスターっ娘!?〜 公式サイト
そんなわけで。自分でも何故今このタイミングで本作をやっているのかわからない。
全体の印象としては特に好みではないものの、ところどころに仕込まれた質の悪い冗談のようなギミックが面白かった。
しかしこれを魔物娘萌えゲーと思って買った人はほんとご愁傷さまとしか言えんね(僕はわかってて踏み込んだからダメージはほとんどない)。やる前からわかってたことだけど、本作は僕の定義に照らし合わせれば「魔物娘もの」ではない。
それでいて副題に「〜僕の許嫁はモンスターっ娘!?〜」とか付けて魔物娘ものの皮をかぶり、Vanadisファンら魔物娘好きを取り込もうとしてくるからたちが悪い。*1「ジャンル:モンスター娘のハーレムラブコメ! ADV」とかおふざけも大概にしろ。
未プレイ者はブランドと企画者、そこから生まれる前評判に目を通しておこう。伊藤ヒロ氏は「ラブロマンスものだけで話を作りたくないんです」という発言*2をしているようなシナリオライターだから、単に魔物娘に萌えるだけで終わるはずがないな、とは思っていた。ちなみに僕が伊藤ヒロ氏企画作品を遊ぶのは初めてだったはず。

2 各要素

シナリオやテキストはゲーム自体によく馴染んでいていいんじゃないだろうか。ちゃんとしているし。
音楽は「ヒャッハー」が好き。
セーブロード周り。分岐が複雑なゲームなので、自然と選択肢セーブを多用することになる。が、多くの選択肢は左姫と右姫の顔アイコンを選ぶ形の二者択一であるため、セーブ画面のスクリーンショットではぱっと見どの場面の分岐なのかがわからない。日付以外の文字情報がないからね。ロードしても、ロード時点以前のバックログは消去されているため確認できない。何のフラグを担う選択肢であるかを忘れてしまった場合は、どちらかを選んで数クリックすることで確認するしかない。せめて章タイトルを書く、あるいはセーブデータにコメントを付けられれば自分で文字情報を与えられるのだがそれもなし。
忘れるな、もしくは顔アイコンの前、左姫と右姫が選択肢の説明をしている場面でセーブしろ、ということなのか……
お気に入りキャラはメインヒロインのナージャ。しっぽがカラカラ音を立てるのがかわいい。基本このゲームのキャラデザはゴテゴテしてるわりにその装飾が魅力に繋がってない感じがするのだが、このSEはよし。

3 魔物と怪物

本作の魔物観は、例えばVanadisの魔物娘シリーズのそれとは違うものだ。魔物の「魔」、つまり人を人たらしめるものがあるように魔物を魔物たらしめる何か、はあまり重要視されず、異種異類であることがピックアップされる。いやまあVanadisとかの魔物娘もだいたいそうなんだけど。
そもそも、僕はこれまで「魔物娘」という呼称を用いていたけれど、本作の副題やテキストを鑑みると「怪物娘」の方が正しい。魔物と怪物では微妙にニュアンスが違う。魔物は魔性を持ったもの(magic creatures)であり、怪物はあやしいもの、ばけもの(monster)である。*3
また、「真の怪物とは?」のエンディングテキストによると、本作における怪物とは生来的なものではなく「なる」もの、後天的なものであるらしい。なるほど。私見では、怪物の方がより正体が知れず恐ろしい、脅威的な存在だ。
ということで、本作を怪物娘ものとしてではなくあえて魔物娘ものとして見ることにどれだけの妥当性があるかは疑問だ。しかし、怪物と魔物の違いに気付く前にテキスト書き上げちゃったので、僕の魔物観を紹介する意味でもここに記しておく。以下の文章では、必要なら「魔物」を「怪物」として読めばいい。

4 魔物観

魔物を考えるにあたっては、本質が魔的であることと実存が魔的であることを明確に区別すべきだと思っている。
魔物の魔物たる所以、「魔性」("ませい"か"ましょう"、どちらの読みがふさわしいのだろう)は何に依拠しているか、というのが最近の僕の問題意識だ。そして今のところ、僕は本質的に人間に害をなすという点をもって「魔性」を持つ、「魔」であるとみなす立場をとっている。「人間に害をなす」という部分はマイ定義なので差し置くとして、とりあえず本質か実存かで言えば本質派よりであると言える。
振り返って本作の魔物娘はさて、どちらかと言えば実存が魔的である。それは決して誹謗されるものではないが、僕が探し求めている魔物娘ものとは違うという話。ちょっと端折ったけど、「実存が魔的」についてはまた後日詳述したい。*4

5 本作における魔物

少し違う言い方をするなら、そう、要はこのゲームの「魔物娘」ってガジェットでしかなくね? という気はする。このへんで魔物娘をひたすらに愛好する人たちはふるいにかけられるわけだね。
「異種」とは自分たちと異なるということであり、「自分」が本位になっている相対的な言葉だ。極端なことを言うと、異種であることを軸に話を組み立てるのであればヒトの肌の色・人種ネタで事足りてしまう。
例えば、機械帝国ルートでは話を転がす異種要素がヒロインの「ガワ」だった。それは果たして魔物を用いなければ成し得ない表現だったか?
「○○ものとして世に出すのであれば、○○ならではの要素を盛り込んで欲しい」、という一般論の○○に魔物を当てはめてみよう。
「魔物娘ものとして世に出すのであれば、魔物娘ならではの要素を盛り込んで欲しい」。
そこで「異種姦」、つまり魔物であることの(身体的)特徴を活かしたセックス、がセールスポイントになるところがエロゲの恐ろしいところだよね。抜けるか抜けないかみたいな問題は別として、うわべだけでも「魔物ならではの要素を作中に取り入れよ」という課題をクリアできるし。
逆に言うと、Hシーン以外の部分に魔物ならではの要素がないと本質派には辛い。「ナリはこんなんだけど、心を通わせることはできるんだぜ」みたいなテンプレ展開だと困ってしまう。
では、この作品の魔物娘と彼女らにまつわるお話には、魔物ならではの要素がどのように含まれていたか確認していこう。

6 魔物と人間

最初にプレイしたのは機械帝国ルートの2エンド。両エンドは恋情(思い出)と常識(おもいこみ)という二つの心のありようを対にして成り立っている。先ほどの話に照らし合わせると、<<42>>ルートよりもR-コマドリルートの方が本質系魔物娘ものとして面白いんだなー コマドリちゃんマジクレイジーだし。それに付き合う慎一もアレだけど。
ただ、こうして両ルートを比較してみることそのものが楽しかったりするから、<<42>>ルートがよくないというわけでもない。
右姫ルート、これはモンスターというよりは特撮的想像力かな。途中で出てきた言葉って「ウルトラマン」の宇宙語パロディ?
これら機械帝国+右姫のルートが一まとめになっている。もう一つがナージャ+プロキシマのルートだ。
こちらのシナリオでは、魔物娘に対して人間の本質と実存が語られる。慎一に秘められた力・人間の本質を「嘘」であるとしたところは面白い(エンディングによってその仮説自体が真になったり偽になったりするところも)。人間を語る前口上として魔物娘を配置していたようにすら見え、こういう形で「魔物娘ならでは」を達成するという試みは評価したい。ちなみにナージャ・プロキシマも実存系魔物娘だった。本質は娘(女の子)の部分にあるようだ。
僕の問題意識は魔物のことばかりに集中していて人間を捉えていなかった節があった。ナージャ・プロキシマルートではその片手落ちを上手くフォローしてもらえたように思う。分岐を複数用意してバッド色が濃いエンドで補足説明するという形式を取っているから、全エンド見ておいた方がわかりよいね。
他に左姫ルートや真由子ルート、ハーレムルートなどもある。真由子のエンドで「怪物」を後天的なものとして捉えている点以外は特に言うことがない。全エンド見ることで開放される「むかしむかしのやくそく」はこの物語が徹頭徹尾ハーレムラブコメであることを示している。だからなおさら性悪だ。

7 結

FD買う予定は今のところないけど、魔物/怪物/人間理解の一形態として興味深くプレイすることができた。自分の魔物観にもより一層磨きをかけ、来るべき魔物娘ゲーに備えたい。まずはVanadisの「聖もんむす学園」で萌え萌えしてえな……
プリンセスX 僕の許嫁はモンスターっ娘!? 初回特典版[アダルト]
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*1:いや、向こうにその気はないのかもしれないが。

*2:二万字座談会「SFメディアとしてのビジュアルノベル」(KUSFA「Pilot Edition for Workbook 96」所収)

*3:「日本語大辞典」より

*4:このテキストを書いたあと、本質が魔的なヒロインが見たいのであればクトゥルフ擬人化ものをあたればよいのではないか説が浮上した。