ゲーム「月は東に日は西に」 感想

そんなわけで。Augustの「月は東に日は西に」(「はにはに」)を先月コンプした。僕にとっては初のオーガストゲーだった。
このゲームについて、「眠い」という感想をちょくちょく見かける。僕も実際共通ルートをプレイしていて眠たくなった。しかし、そこから一歩踏み込んで「眠い」とはどういうことかを論考したのは僕が知る限りpa_veさんだけだ。
pa_veさんは本作の共通ルートにおける場面展開について、三つの点を重要視している。

つまり、「どこへ行く?」などを選択肢で選ばされて、その先には誰かしらのヒロインが居て、そこでちょっと会話を交わした後にはまたすぐ教室なりの他の場所に移り、そしてまた選択肢により場面が変わっていったりする。ここで重要なのは、その「多さ」と、1シークエンスの(時間の)「速さ」、そして言い方は悪いですが、「中身の非重要性」です。

月は東に日は西に――カラの玉座に王は立つ(その1) 【 なすところをしらざればなり 】

この「中身の非重要性」がいわゆる眠さに直結しているわけだね。
pa_veさんはそこからさらに「ToHeart=四コママンガ」に接続して、「はにはに」ひいては「エロゲ」における「日常」を読み解いていく。本作の共通ルートは、"本編中のどこから読んでも面白い、その瞬間が面白いものである、シチュエーションの連続である"、と。そして最終的には、プレイヤーを「日常」に惹きつける原動力という形でキャラクターの存在に目を向ける、という話。
このレビューを読んでいなければ、「『はにはに』の共通ルートは眠かったです。終わり」になっていたところだった。上記の要約には書かなかったこともあるので、是非エントリ全体に目を通してほしい。
さて、キャラクターに対する想いを原動力としてこのゲームをプレイした時、「この娘の物語が読みたい」という欲望は個別ルートにおいて満たされる。果たしてその内容は、質・量ともに対象ヒロインへ感情移入させるには十分だった。
この作品の個別ルートを一言で表す言葉がなかなか思い浮かばなかったけど、死エロの「Lien〜終らない君の唄〜」評に倣って「エンターテイメント」と呼びたい。

笑わせて楽しませて、ホロリとさせる。でも後味スッキリ。お涙頂戴で終らず爽やかに幕を引く。*1

Lien

個別ルートはどれも感動的な展開ではあるけど、僕の涙を誘うほどではない。もし泣かせることを目的としているならば、明らかに執念が足りなくて失敗している。でもそうじゃない。このゲームのシナリオは「泣き」ではなくて、「彼女のことを知りたいという欲求を満たし、プレイヤーに彼女のことを好きにさせること」を志向しているように見える。であるならば、その実践は確かに成功しているだろう。
はにはに」はエロゲにおける一つの雛形的なゲームだと思う。既述のような評価点は、現代のADVタイプのエロゲ一般に当てはめることができる。しかし、それは本作が無個性なゲームであることを意味しない。本作は、同種のゲームの中でも見本として他に引けをとらないゲームだろう。どこを見ても楽しめる共通ルート、キャラクターに感情移入できるだけの健全な「いい話」で構成された個別ルート、各ヒロインにつきしっかりと3回ずつ用意されたHシーン、シナリオ、ビジュアル、音楽……。各要素はどれ一つとってもしっかりと作り込まれ、良質なエンターテイメントを構成している。*2
だから、エロゲのお手本であるような本作に僕が及第点以上の加点をするならば、それはゲームの原動力たるヒロインをどれだけ気に入るか、ということによる。彼女達は皆いい娘で、特に茉理と恭子さんが好きになった。茉理はシナリオが進むに連れてだんだんと親しくなっていく様がかわいかった。恭子さんは年上の魅力を十全に発揮していた。キスした時に「んっ……久住、とっても……上手よ」とささやいてくれるところがたまらない。こういう男のプライドに対する気遣いができるヒロインがもっと増えてほしい。
Hシーンはとにかく着衣Hにこだわって作られている。これがやたらとエロい。保奈美の裸エプロン茉理のウエイトレス制服、恭子さんの裸Yシャツが特に良かった。体位やプレイ内容もそつなく基本的なところを押さえている。
本作でオーガストゲーの総合力の高さが窺い知れた。遠い話になると思うけど、今後は積んでいる「夜明け前より瑠璃色な」をプレイし、それも面白ければ「穢翼のユースティア」を購入検討に入れることにする。

月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~ 通常版月は東に日は西に ~Operation Sanctuary~ 通常版

オーガスト 2003-09-26
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*1:「Lien」は未プレイだけど、「はにはに」もそんな感じなので。

*2:ただし、塗りをはじめとして、現代に最適化されているわけではない。