漫画「七色いんこ」 感想

そんなわけで。手塚治虫七色いんこ」の感想。
この作品の形式を最も分かりやすく説明すれば、「ブラックジャックみたいなもの」である。1話完結で、専門職の男が活躍するというところが共通している。ただし、本作の主人公七色いんこは、医者ではなく役者である。

ストーリー

公式から引用。

代役専門の天才役者にして泥棒という異色のキャラクターを主人公にした犯罪活劇です。
七色いんこは、代役専門の天才役者で実は泥棒です。観客から盗みを働くのを劇場と劇団が見逃すことを条件に、どんな代役でも引き受けて見事に演じのけるのです。
そんな彼に恋心を抱きつつも、彼を捕えようとしつこく追い回すのが、女刑事の千里万里子でした。
そこに、いんこにも劣らぬ演技力を持つ犬の玉サブローが絡んで、世界を舞台に、数々の演劇を下敷きにしたストーリーが展開します。

七色いんこ:マンガwiki:TezukaOsamu.net(JP)

各話あらすじや登場キャラクターなんかも参照できる。公式すごいなー

特徴

B・Jと比較した時の本作の特徴としては、主人公の七色いんこに人間味があるってところかな。
喜怒哀楽をわりと素直に表現するキャラで、クールなB・Jと比べると感情移入はしやすい。
最初の方は華麗に立ち回るエピソードが多いけれど、失敗して終わる回もけけっこうあったりする。ゲストではなく、いんこ自身が悩んだり成長したりする話もある。代役をやるが故に抑圧された自分のホンネが顕在化した時には、かなり苦労していることがわかる。

お気に入りのキャラ

主人公七色いんこ以外で言えば、ヒロインの千里万里子が魅力的だった。ツンデレ武闘派系刑事さんで、ものすごくかわいい。こう、いんこへの想いがだんだん募っていくのを見るのがとても楽しい。本編内で、しっかりとその恋愛の結果を描いたところも評価したい。脳内CVは青山ゆかりさん。

お気に入りの話

僕が特に気に入ったのは、

  • シラノ・ド・ベルジュラック
    • スター・システムの中でも猿田の存在感は強烈だと改めて思った。
  • 「森は生きている」
    • "「金なんかよりもっと大きなもんをきみはくれた――勇気さ!」"という台詞が印象に残った。
  • 欲望という名の電車
    • 一つの労働観、人生観を示した秀作。
  • 「終幕」
    • 実質最終話的なエピソード。七色いんこの演劇に懸ける想いには、ストレートに感動した。

好きな台詞

一番好きな台詞は、七色いんこが千里万里子に言ったこれだな。

「芝居ってのはね刑事さん…相手に生きる元気をあたえるためにあるんだぜ…」

本当にそう思うしね、僕の今までの経験からしても。演劇は素晴らしい。

この作品は手塚治虫ファンの中でもカルト的人気があるようだ。読んでみてそれも納得した。
手塚作品の中でも後期にあたるから、わりと今風に近いし、1話完結で疲れずに読める。シリーズも5巻で完結してるからコンプも簡単。それでいて内容は面白く、語るに尽きない。未読の人には是非手にとってみることをお勧めする。

七色いんこ (1) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

七色いんこ (1) (秋田文庫―The best story by Osamu Tezuka)

余談1

「日本の国土」っていうネタがちょくちょく出てきて、なんぞこれーと思って参考になるエントリを探した結果がこれ。
巨匠の一発ギャグについて: たけくまメモ
これを読んでもまだよく分からないけど、田中角栄の口癖から来ている説があるらしい。時代を感じる。

余談2

演劇つながりということで、18才以上の諸兄には、「げきたま! 〜青陵学園演劇部〜」という演劇部を舞台にした美少女ゲーをお勧めしておく。今夏発売予定。スタッフの中には本物の舞台役者さんもいるようなので、内容にも期待している。