ゲーム「猫撫ディストーションExodus」 感想

そんなわけで。WHITE-SOFTの続・揺らがないアドベンチャー「猫撫ディストーションExodus」をプレイした。litfさんの猫撫ディストーションExodusシーンタイトルリスト - Lost in the Frontlineを見て話を思い出しながら書く。

Exodus

最初はいまいちモチベーションが上がらなかった。
読み飛ばしていい台詞があまりないから、クリックはゆっくり目になる。
進行速度が遅いのは内容のせいもあって、というのはExodus編序盤は「取り立て」の話になっているから。

樹いわく、
「時間はいつも後ろから追いかけて来て、俺をせき立てる」
そんな感じの後ろから追いかけてきました。
WHITESOFT 猫撫ディストーション Exodus»Special

前へ前へと進むわくわく感よりも、後ろから(樹の)過去の所業が現象となって追い立ててくる感じが強くてしんどい。インガオホーである。あと序盤から猫さんがかわいい。
OPムービー後(Exodus Chapter1から)は自分の中でエンジンかかった感じがして俄然面白くなってきた。
Exodus編は無印を踏まえに踏まえているから、無印の理解が危ういと本編の読解が絶望的になる。
これは数学の学習みたいなもんで、理解が階段式なんだよね。ステージ1で得たものを用いないとステージ2に登れない。ステージ3以降も同様、という。
ただ、階段式の理解モデルにおいては無理やり階段を登って見下ろすことで一段下のステージの内容が理解できる、ということもある。
ステージ1で得たものを用いないとステージ2へ行けないということは、ステージ2に辿り着いた時点でステージ1から得るものを得ているということだ。わからないなりに総括して次のステージへ行ってしまえば、それはそれで何とかなる。そして、エロゲではクリックするだけでステージを(仮に)登っていくことができる(教科書のとあるページの内容を理解していなくても次のページをめくること自体はできるように)。
僕が無印の内容を忘れかけていても、それなりにクリックしていけば樹や琴子やギズモたちが総括してくれる。さすがに全てを彼らに任せてしまうわけにはいかないが(矜持的な意味で)、ずいぶんと助かった。Exodusは前作で語られなかったことをかなり明示的に語ってくれるので、思考するにも暗中模索ということはない。*1
先行レビューではyosh10さんの感想が読解の参考になる。また、vostokさんの感想も面白く読めた。

内容は言うことなしで素晴らしい。
結衣姉さんがかっこよかった。不意に姉さんの声が聞こえるとすごく安心する。
猫耳琴子もかわいいんだけど、あそこではギズモの方がエルダーになっていることに注目したい。琴子はギズモのことを妹ができたみたいだと言っていたけれど、紆余曲折の末にギズモがお姉さんになったりもする。樹からすれば二人の長幼はささいなことかもしれないが、ギズモが嬉しそうだったことにはそんな理由もあったんじゃないかと思う。
新しく世界へやって来る者を歓んで迎えるための言葉を編む。

Role playing Organism

1

式子さんマジグレートマザー。思いの外ボリューミーだった。いいものが観られて嬉しい。
気に入ったフレーズを幾つか拾っていく。
「家族のすてきな揺らぎ」。

【樹】「家族は揺らいでいるからこそ、揺るぎなく家族になれる」

このレトリックが快い。

それは、七枷家だけが膨張して、なし崩し的に周りを取り込むような暴力的な家族(グレイ・グー)ではなく。
周りの社会も家族の一員と認めていく、調和する家族(ハルモニア)。

祝福の言葉によって、家族はどこまでも広がり届いていく。式子さんの優しさは五臓六腑にしみわたるでえ。

【琴子】「――ここが、最大幸福(グレイテスト・ハピネス)です」

前作に続いて、OPムービーで観た台詞が予想外のポイントで発話されるから面白い。
祝福、想像力、愛によって、すべての可能性を共存させてくれる。そんな母さんと樹が、"世界へと開かれた2人きり"となって口づけを交わす。このシーンは絵も語りも何もかもが素敵でうっとりする。

2

結衣「結衣はこれから母さんのことを何て呼べばいいんだっ!?」
結衣「今まで通り母さんでいいのか!?でも、義理とはいえ妹だぞ?」
結衣「元々ルックス的にムリがあったのに、さらにムリ度が上がってる……!」
結衣「いっそのこと母親と妹を融合した新しい概念を導入するべきか……!?」
式子「新しい概念ってなぁに?」
結衣「そうだな……かあうと?」

ここに至ってはもはやエルダーも何もしっちゃかめっちゃかである。
あと、Exodousになって新規収録された燃え系BGMの使い所が何故か笑いを引き起こす。

Awareness Human

思いの外あっさりと終わった。この娘4シーンもあって大変よろしい。おなか触りたい。
しかし、樹と柚が(ノイズ混じりで)家族に見守られてるところに一抹の気持ち悪さを感じる。

琴子色

婦警さんカワイイヤッター!
ここでは樹と琴子を言祝ぐギズモに目頭が熱くなる。猫に貰った贈り物は決して忘れ去られない。

メイド in world

終盤にこのゲーム唯一のシナリオ分岐がある。「ギズモの言葉」と「今の循環」、どちらも是非無き終わりであり、ものがなしさとおかしみ(突然戯画化された七枷家のみんなや猫たちの絵)を感じる。

Time is Money

何も言えないし言わない。ただ、結衣姉さんが口にした永遠の意味を僕は考え続けていこうと思った。

僕の言葉が本作の格についていけておらず、反省しきりである。
それはともかく、全編終了したにもかかわらず全然終わった気がしない。というのも、これは猫撫無印と二つで一つの作品であるように思うからだ。Exodusを終えた時、心は前作を志向する。前作をやりたくなるということは、よい続編であるという一つの証だろう。両作をプレイすることでできあがる円環はたいそう美しい。魅力的なループだけれど、ひとまず脱出させていただく。
猫撫ディストーションExodus[アダルト]
猫撫ディストーションExodus [アダルト]

*1:ここまでしてもらって"全てはゴミ それか光"という歌詞の表す事柄がようやく分かった。