現代社会の理論

そんなわけで!
今回の記事は「現代社会の理論」(見田宗介著、岩波新書465)の書評です。
この本は現代社会が情報化 /消費化社会であるという認識を持ちつつ、そこから生まれる諸問題について堅実な考察を行って現代社会の実態を見据え、楽観論でも悲観論でもない冷静な理論の組み立てを試みた良書です。

この本の構成は、1情報化/消費化社会の展開、2環境の臨界/資源の臨界、3南の貧困/北の貧困、4情報化/消費化社会の転回という四つの章からなります。
1で情報化/消費化社会の意義を解き明かし、2、3章で現代社会の限界問題について説明し、4章で現代社会の新たな地平を示していく、という内容です。

上に書いたとおり、この本の良い点は、著者の理論の組み立てが冷静で堅実なところにあります。読み進んでいるうちに理論が飛躍して混乱するということがありません。
何故、著者の理論にこのような安心感があるのか考えてみました。そして、それが用語の使い方に起因することを発見しました。

情報や消費、環境問題、南北問題といった用語は、人によって持つイメージが違います。それら一つ一つの用語に対して、根拠を示しながら、この言葉はここではこういう意味で使うんだという、一つの明確な概念を形作って示していく。
それらの用語が積み重なって構築しているから、何が問題であるか、どう解決するかということにおいて意味のぶれが生じない。だから揺るぎない理論ができあがるわけですね。
あらゆる社会学者の方にも、ぜひこういった書き方で執筆していただきたいものですね。自分の持つ言葉のイメージを他者も持っているという前提で話を進めたり、言葉の定義づけが適当で用語の意味があやふやだったり、という本がいまだに多いですから。そういった本は読んでいて何度も見返さないといけなかったりして疲れます。

あえて言葉の意味を適当にしておいて読者に判断をゆだねるという書き方もあります。僕も実際にそういう書き方をするときがありますし、それがベターなときがあります。
しかし、少なくとも社会学という分野で一つの主張を通したいときには、この本に見られるような用語の概念づけ、理論の組み立てが必須です。
社会学について文章を書く人以外でも、理論の組み立てを学びたい人には良い見本になると思います。自分がこれからブログで文章を書く上でも、誠実な理論の組み立てをしていきたいですね。この本を読んで、以前無茶理論で書いた記事(健全な社会)を早くリライトしたくなりました。
もちろん社会学に興味のある人にとっても充実した参考書になると思いますので、一読をお勧めします。
最後に、本書のあとがきから一節を引用しつつ、いつもの形で締めくくりたいと思います。

ほんとうに切実な問いと、根底を目指す思考と、地についた方法とだけを求める精神に、ということばを、あえてこの本の終わりのことばとしてもくりかえしておきたいと思う。アクチュアルなもの、リアルなもの、実質的なものがまっすぐに語り交わされる時代を準備する世代のために。
一九九六年七月    見田宗介

現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)

現代社会の理論―情報化・消費化社会の現在と未来 (岩波新書)

 現代社会の理論、現実に即した概念から作られる理論が、詩にならぬもの。