新書「人間の限界」 感想

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そんなわけで。霜山徳爾著の岩波新書「人間の限界」を読了したので感想を書くよ。
本書は、著者が実存分析(人間学精神病理学)の立場から、人間とは何か、人間の生き方、人間存在の限界などの現象について整理したものである。
この本を買ったのはもう5年ほど前になり、ずっと積ん読していた。今回読もうと思ったのは、ゲーム「素晴らしき日々〜不連続存在〜」の作中に出てくる「世界の限界」という術語と、この本の書名に何か関連があるのではないかという直感からだ。結果としてはそれほど密接に関係があるわけではなかったけれども、人間というものについての知的好奇心は十分に満たされた。

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まず感心したのは、著者の教養が本当に深いという点だ。折に触れて俳句、短歌、小説といった文学作品、漢詩や海外文学、哲学、絵画、映画作品などが引用されている。また、日本語における様々な分野の単語や慣用句にも造詣がある。恥ずかしながらこの本で初めて見るような和語も多かった。
かといって衒学的というわけではない。むしろ上記のような引用が、「人間の在り方についての考察」という硬質になりがちな文章にエッセイ的な味わいを与えている。そしてその裏側には、人間というものに対する冷静な認識がある。

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生きる楽しみについて、他者からの/他者へのまなざしについて、手や足が持つ意味役割について。獲得した自由について、漂白の道程について、この世界の限界、地平や蒼穹について。そして、人間の限界の一つである死、人生との告別について。これらが本書の各章のテーマである。それぞれが連結し、章から章へスムーズに思考がシフトしていく。
既述のような教養にあふれた文がしっかりと組み立てられ、節や章を作り、書籍全体としてダイナミックな人間学を描く構成力は見事というほかない。これからも何度となく読み返したい、まごうことなき名著だった。
著者である霜山徳爾氏は惜しくも昨年に亡くなっていることを知った。この書籍との出会いに感謝し、心から哀悼の意を表す。

人間の限界 (岩波新書 青版)

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素晴らしき日々 ~不連続存在~ 特装初回版

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