ゲーム「京都〜想いは渡月橋をこえて〜」感想

そんなわけで。eLiaの"京都、嵐山を舞台とした学園ラブストーリー"ADV「京都〜想いは渡月橋をこえて〜」をクリアしたので感想を書く。
クソゲーと名高いこのゲームだったけど、思いの外悪くなかったというのが一言総括だ。二言三言足していくとあまり褒められたゲームではないのは確かだが……
まずパッケージイラストからパースが狂っていて、ヒロインの望月ほのかが巨人に見えてくるので、この時点で大方の人は内容を察して購入を控えたのではないかと思う。そのパッケイラストからほのかの絵を流用して、ロケ写真から起こしたと思われる嵐山・渡月橋のほとりに彼女が座っているタイトル画面が組まれているのだが、これも嬉しくないパンチラと微妙な表情の加減でどことなく不気味な印象を受ける。ちなみにタイトル画面のBGMがないのでなおさら寂寥感を覚える。
ゲームシステムはビジュアルノベルスタイルで、背景・立ち絵の上に表示されたテキストをクリックで送っていき、選択肢を選びマルチエンディングに到達するというエロゲにおいては典型的なものの一つ。ただ、スキップがかなり遅いのと、セーブ・ロードスロットの数が10もないせいで、快適さはない。CDDAだからか、音楽モードがない。CG・回想モードはあるが、僕のプレイ時には全クリアしたのに登録されていない回想シーンがあった。また、当方の環境に起因するのか、各エンド後にスタッフロールが一切なかった。
ついでに書いておくと、インストールフォルダから直接SEファイルとボイスファイルが閲覧できる。SEファイルはたったの7個だった(強烈に不足だと感じたわけではない)。目覚ましの音がとにかく耳に触るのでSE切りたくなる。ボイスは一部再生されないファイルがあり、プレイ中そのボイスに差し掛かるとWindowsの警告音が鳴った。
以上のようにシステム環境面では今の基準からすると(もしかしたら発売した2000年当時においても)かなり見劣りがする。
ヒロインとお話。舞台は京都府京都市右京区西京区あたりに位置する嵐山。実在する渡月橋と橋にまつわる伝承をキーにして、主人公・篠崎達也とヒロイン・望月ほのか/藤原ひかり/鈴原霞/安里李留が繰り広げる恋愛劇がメインストーリーとなる。そこに、小ネタとして京都の社寺仏閣や風物詩を導入し、土地観光的な要素も含んでいる。
パッケ裏には、

"すれちがう想いと想い・・・紅葉のなか、想いは恋へと変化する・・・"
"女性の嫉妬を題材とし、心境の変化はもちろん、平凡な恋から体を張った強引な略奪愛まで多様な展開を見せるストーリー!"
"京都、嵐山を舞台とした学園ラブストーリー"
"幼なじみであるがゆえの悩み。妹的存在を抜け出せない苦しみ。他人と区別なく接してくれる彼へのひそかな想い。自分と違う存在へのあこがれ。それぞれの想いが交差し、時にはぶつかり合い、物語の結末は誰にも予測の出来ない方向へ・・・"

と書かれており、複雑な恋模様が描かれることを期待させる。しかし、ゲーム内容はそこまで多様ではなく、むしろ単純だった。順を追って説明しよう。
公式の詳しい解説がないため推測を含むけれど、このゲームでは選択肢を選ぶことで好感度のほかに嫉妬ポイントが貯まっていく。要はある女の子の前で別の女の子に好意的な発言をすると嫉妬されるというわけだ。
嫉妬ポイントが一定値に達していなければ、一般的なエロゲのように好感度が高いヒロインのルートに入り、告白されて結ばれHをしてハッピーエンドという展開になる。いわゆる純愛エンドというやつだ。これは各ヒロインに共通して1種類ずつある。
そして、あるヒロインの嫉妬ポイントが一定値に達していながら別のヒロインと付き合った場合、あるヒロインは別のヒロインから篠崎達也を略奪する。俗にいう略奪エンドというやつで、これはほのかのみ他の3ヒロインから奪う3種類が、ひかり・霞・李留はほのかから奪う1種類がある。
一応、誰ともくっつかずに終わるエンドも存在する。
厳密に数えると11種類もエンディングあるわけで、これは確かに数字だけ見れば"多様な展開"と言ってもいいように思える。しかし、このゲームのシナリオは展開のワンパターンさが尋常ではなかった。
純愛エンドなら、共通パート終了→ヒロインと中陵公園で待ち合わせ→告白され、達也は受け入れる→即帰宅セックス→即エピローグという流れであり、個別ルートにも関わらず4人のヒロインはほぼ交換可能である。
略奪エンドなら、共通パート終了→ヒロインAと中陵公園で待ち合わせ→告白され、達也は受け入れる→だがしっくり来ず「自分は本当にヒロインAが好きなのだろうか」と自問自答する達也→ヒロインBが後から告白→即セックス→ヒロインAを渡月橋に呼び出し別れを切り出す→信じられないAに達也がBとのキス・あるいはセックスを見せつける→ヒロインAは退散→エピローグという流れであり、こちらもヒロインはほぼ交換可能である。本当にヒロインが変わっても同じ展開が繰り広げられるので笑ってしまう。
つまりパターンとしては純愛・略奪・バッドの3パターン、バッドは恋愛劇として数えなければ2パターンしかないわけで、どこが多様やねんとツッコミたくもなってしまう。
略奪エンドについてもう少し詳しく書き加えよう。李留略奪エンドのような、「あなたは変態的なプレイを拒んだようですけど、私は受け入れることができますから、私の方があなたよりも彼の恋人にふさわしいです」→「できるもんですか。じゃあ私の目の前でやってみなさいよ」→「やってやるです」→「いやああああ」という場面の流れは王道的で好ましい。
しかし、エピローグでは必ず寝取られた側のヒロインが新しい恋を見つけたりして元気にやっている様子が描かれ、後味の悪さを解消しているけど、個人的にはその後味の悪さを美味しくいただきたいわけで、好みではなかった。ほのかの前でアブノーマルなセックスを見せつけるて以後しばらくは"汚いものを見るような目で避け続け"られる描写があり、そのリアクションがずっと続けばなあと思った。
個別ルートは以上のような出来なので、結局のところ「楽しさ」では共通ルートが一番だったとは言える。ヒロインごとに京都の色んな場所へ行ってるからわかりやすい違いもあるし。
京都に実在する社寺仏閣・風物詩を自然に織り交ぜた会話は、京都在住の自分からすると「ああ、あそこか」とすぐにわかるので楽しめはした。例えば、大きな胸・小さな胸、どっちが好き? っていうのはエロゲでよくある話の流れだけど、そこから、「母親は乳の出が悪かったから伏見区日野の法界寺(乳薬師)」に行って……みたいなエピソードがぽっと出てくる、という風に京都っぽさを入れてくる場面は悪くなかった。他にも、「森嘉のお豆腐」という言葉がナチュラルに出てくるところで驚いたり。森嘉はあのあたりにある豆腐の老舗で、エロゲシナリオライター涼元悠一氏もお豆腐を購入していたりする。
ただ、自然に織り交ぜたと言えば聞こえはいいが、ほとんどの京都関連ワードについて解説が頼りなく、知識のない人は本やWebでセルフ補足しながら読まないとわからない箇所が多いように思う。全体的にこのゲームのテキストは粗雑。あと、哲学の道の説明で金閣寺銀閣寺を間違えるミスがあったりして、そういうところもダメだった。
本作の象徴たる渡月橋、その伝承は作中だと「恋人同士が一緒に渡ると別れることになる」というものだったが、僕が実際に聞いたことあるのは「恋人同士が一緒に渡っている最中に後ろを振り向くと別れることになる」というもの。これは十三詣りの伝承のアレンジだろうと疏水太郎氏から教えてもらった。

参詣の帰路、本堂を出たあと、後ろを振り返るとせっかく授かった智恵を返さなければならないという伝承があって、狭い長い石段を降リ切った鳥居をくぐるまでは、または渡月橋を渡り終わるまでは周囲の誘いにも動じず後ろを振り向かないで貫き通す習俗がある(なお、お参りの前に子に教えておくことをすすめる)。

十三詣り - Wikipedia

最後にざっとキャラクターに触れていこう。
篠崎達也。「吾輩は篠崎達也!! 京都観光客のマナーを真に憂う者である!」と言わんばかりに、観光客の素行の悪さについてはキレやすい青年。流されやすく、ノリで告白を受けてしまってから略奪愛に身を任せたりするため、ろくな男ではない。共通ルートでヒロインとの距離が縮まるイベントが起こった後、必ず彼女たちのフェティッシュな唇や声や香りを思い出して切ない気持ちになってしまうという、多感な奴でもある。ドラクゴエスト略してドラゴエというゲームに熱中しており、やりたさが高まって帰宅中に「ドラゴエ、ドラゴエ、ドラゴエ……」と呟きながら渡月橋を渡る様子には「彼は狂っていた。」という地の文を付けたくなる。
望月ほのか。舞妓部所属の同級生。嫌いな虫が描かれているというだけでプリントを配るのを躊躇する。それがあなたのカワイイなのか…… プレイヤーの印象に残りやすいのは、篠崎君が何でもおごるという約束に乗じて湯豆腐(1人3000円コース)をおねだりするシーンだろう。おごりイベントだからって食べるのはパフェとかじゃないんだよ、京都だからここ! 略奪エンドの寝取られ側では達也と寝取りヒロインを"汚いものを見るような目で避け続け"るので根は潔癖なようだ。あと、舞妓は男を知って芸妓になるという女性観を持っており(歪んどる)、寝取る側のイベントでは「私を芸妓にして」が決め台詞だった。怒られろ。
藤原ひかり。本作の中でも声がアレなヒロインで、特に「きゃはは」という台詞を「きゃはは」と発音するのには頭を抱えた(「おれつば」の「ゲラゲラゲラ」みたいな一芸でもない)。ちなみに全員声優非公開なので特定班の出動が待たれる。年下ポジションで達也・ほのかと登校する都合上出番は多いが、あまりグッとくるところがなかった。
鈴原霞。一番好きかもしれない。変態性欲・露出癖の持ち主。略奪ルートでは告白即露出から乳首クリップ+バイブの構えで迫ってくる手練である。純愛ルートのエピローグも露出写真撮影プレイであり、"激しい興奮と、穏やかな幸福感に包まれて、俺たちは哲学の道を歩いた・・・。"という結びは本作屈指の名文。
安里李留。上品なお嬢さんで、ほのかに達也を略奪され見せつけプレイをされても正気を保ちながら身を引いていく。半狂乱でその場を駆け去るヒロインが多い中ではまともな方だ。しかし自分が寝取る側になった時にはほのかにこれでもかと後ろでの性交を見せつける。あえていうならその二面性が魅力か。
感想としてはこんなところ。ツッコミどころが多いので筆が乗ってしまったが、あと少し何かをどうにかすれば純愛・略奪両ルートで本当に複雑な恋愛を描いたわりといいゲームになれたのではないかと思える程度のよさはあったことを記しておく。
余談だが、発売当時にアンケはがきをTGLに送ると35000円相当のMP3プレイヤーを15名にプレゼントしてくれたらしい。このゲームを8800円で買ってしまった心理ダメージをそれでケアできたかは謎だが、往時のエロゲ業界の景気の良さを感じさせる。