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そんなわけで。
チャールズ・M・シュルツ作、谷川俊太郎訳で主婦の友社から出ているスヌーピー(ピーナッツ)の絵本シリーズがある。
参考: スヌーピー - 谷川俊太郎 非公式ホームページ
これまで僕はこのシリーズのうち「安心は親指と毛布」「しあわせはあったかい子犬」 「友だちがほしい」を読んできた。今回はその中から「しあわせはあったかい子犬」を取り上げる。
この本は左のページに文章、右のページにイラストが書かれ/描かれた絵本だ。文章は全て「Happiness is 〜(しあわせは〜)」という形式になっている。例えば、表題は以下のような一文であり、
Happiness is a warm puppy.
しあわせはあったかい子犬。
この右のページにはルーシーがスヌーピーを抱いているイラストが描かれている。
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本書の素晴らしさは、「しあわせ」という抽象的な概念を個別具体的に記述している点にある。「親指と毛布」、「雨がさと新しいレインコート」、「自分のベッドで眠ること」、「なめらかな歩道」、「ドアの取っ手に手がとどくこと」、などなど。ここに描かれている「しあわせ」は全て、僕たちにも想像可能な生活のニュアンスである。
では、「しあわせ」を個別具体的に記述することの意義とは何だろうか。それを説明するために、哲学者三木清の論文集、「人生論ノート」という本を紹介しよう。この本は青空文庫で全文を読むことができる。
参考:三木清 人生論ノート
三木は「人生論ノート」において「幸福について」という章を記し、生と幸福に関する思索の跡を残している。
死は観念である、と私は書いた。これに対して生は何であるか。生とは想像である、と私はいおうと思う。いかに生の現実性を主張する者も、飜ってこれを死と比較するとき、生がいかに想像的なものであるかを理解するであろう。想像的なものは非現実的であるのでなく、却って現実的なものは想像的なものである。現実は私のいう構想力(想像力)の論理に従っている。[…]生が想像的なものであるという意味において幸福も想像的なものであるということができる。
死は一般的であり生は特殊的であり、その意味において死は観念であり生は想像である、と三木は言う。そして、そこから導き出した結論として、幸福もまた想像的なものであり、幸福は個性であり、幸福は人格であると。
同書「健康について」の章に"如何にして健康の完全なイメージを取り戻すか、これが今日の最大の問題の一つである"と書かれていることからも分かる通り、三木清という人はイメージを重要視する。健康は幸福に近しい概念だ。そして彼は、想像・イメージは常に形を伴って外部へと表現されるものであると考える。
機嫌がよいこと、丁寧なこと、親切なこと、寛大なこと、等々、幸福はつねに外に現われる。歌わぬ詩人というものは真の詩人でない如く、単に内面的であるというような幸福は真の幸福ではないであろう。幸福は表現的なものである。鳥の歌うが如くおのずから外に現われて他の人を幸福にするものが真の幸福である。
「しあわせはあったかい子犬」の中で、チャーリー・ブラウンを始めとするピーナッツの面々はそれぞれ個別具体的な「しあわせ」の形を豊かに表現している。そんな彼らの姿を見て僕が「しあわせ」を感じたという事実が、彼らの「しあわせ」が真であることを証明する。
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最後に、僕が本書において最も共感した「しあわせ」を引き、感想を終えることとする。
Happiness is walking in the grass in your bare feet.
しあわせははだしで草を歩くこと。
この文には、気持ちよさそうに芝の上を歩くスヌーピーの絵が添えられている。
既述のように、健康は幸福に通じる。僕が抱く健康のイメージは「草原の中を風を切って走る」というものだ。上記の一文は、このイメージに通じる想像力を持っている。
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