そんなわけで。本日、大谷大学で行われた講演会「震災と哲学」に参加してきた。講師は、前大阪大学総長で今年9月から大谷大学の教授に就任した鷲田清一氏だ。タイトル通り、震災と哲学の関わりを中心として貴重なお話を聞かせてもらったので、講演のメモを起こしておく。聞き間違えてるところがあるかもしれないので読む人はそのへん留意してほしい。誤認はコメントに書いてもらえれば訂正する予定。
講師概要
1949年京都市生まれ。京都大学大学院博士課程修了。前大阪大学総長。本年9月より本学教授。専門は哲学、とくにフッサールやメルロ=ポンティなど現象学。『モードの迷宮』(サントリー学芸賞)、『「聴く」ことの力』(桑原武夫学芸賞)など、著書多数。
(本講演チラシより)
鷲田さんは1976年に「ジェイムズの思想の底を流れるもの」を、また「モードの迷宮」と時期を同じくして1989年に「分散する理性」を書いていたという話があった。他に、ちくま学芸文庫「くじけそうな時の臨床哲学クリニック」も紹介された。
講演概要
「みえてはいるが誰れもみていないものをみえるようにするのが、詩だ」と、かつて詩人・長田弘は書いた。哲学についても同じことが言えるとおもう。このたびの東日本大震災と福島原発事故は、見えているのに多くのひとが見てこなかったさまざまの問題を浮き彫りにした。浮き彫りになったそれらを哲学の問題としてどう受けとめるかについて、考えてみたい。
2011年度 大谷大学西洋哲学・倫理学会 公開講演会 | 2011年度新着一覧 | 大谷大学
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- 震災後50日くらい、仙台の図書館にはたくさんの人が来ていた
- なにか一心不乱に調べ物をしたいというわけではなく、(地震に関する)世の喧騒と違う時間を一人で過ごしたいという人が多いように見えた
- 考え事をしていて、このあたりの話の主旨がつかめなかった
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- 福島への逆差別の話(鷲田さんは「逆差別」という言葉を講演中ずっと使っておられたけど、僕は普通に「差別」でよかったのではないかと思った)
- 鷲田さんの友人曰く、「震災後に仙台が開いた」。人々の間の垣根が取り払われ、お互いを思いやって挨拶したり助けあったり、まるで祝祭の日々のようだった
- しかし、やがて被災者間に再び隔たりができ、「急速に街が閉じていった」。
- 寺田寅彦「文明が進むほど何かあった時の被害が大きい」
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- 震災によって都市生活から原始生活へ戻ってしまった。水などのライフラインや帰宅難民問題など
- 便利さや効率を求めていった結果、人間一人一人の能力が低下している・無能力になっているのではないか
- 禍福は糾える縄の如し
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- 現代の社会は特定のことをプロに任せるようになっていて、その結果生老病死に対応する能力が下がったのではないか
- 貧困が孤立した状態で現れる、と50年以上前に指摘した人がいる(名前は失念した)
- 専門家への不信
- 賢者と智者
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- 文化のあり方が問われている
- 生き方の作法
- 例えば、食について言うと「味わい分ける」→「吟味する」ということが大切であり、味を選べないことはひどく尊厳を傷つける
- この「吟味する」、つまり「価値の選択をする」ということに最低限の人間の尊厳、人間の自由の根本がある
- ジャン=ピエール・デュピュイの「ツナミの小形而上学」に、「大地は子孫が残してくれたもの」という言葉がある
- 西谷修はこれを踏まえ、「未来から現在を見る」という思考法を説いている
- 参考:『ツナミの小形而上学』と高木仁三郎 (西谷修−Global Studies Laboratory)
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感想
会場は年配の方が多かった。せっかくの無料講演なんだから若い人ももっとくればいいのにもったいない。あと、Yahoo!リアルタイム検索で調べて知ったけど、内田樹さんが来てたらしい。
講演の中心はある事柄に対して「全体をどう語るか」という問題意識であったと受け取った。僕も常に智者ではなく賢者を志すことにしよう。
主体として価値を選択する点に人間の尊厳と自由がある、という話はぼんやりと考えていたことをうまくまとめてもらえた気がしてよかった。
アンチリーダーシップ論も肯けた。今の世の中、どこもかしこも退却戦を強いられることが多い。自分の所属するコミュニティ(企業とか)が成長していくことを前提にした押せ押せのリーダーではなく、できるだけ傷が浅くなるように逃げる算段を整えるアンチリーダーは需要あると思う。
ただ、「アンチリーダー」だと少しわかりにくいので「サブリーダー」とした方がいいかもしれない。僕が鷲田さんの話を聞いて思い浮かべたのは、登山をする時にパーティーのリーダーは一番前で皆を先導し、サブリーダーは一番遅い人に合わせて最後尾につくという原則(?)だった。僕自身もサブリーダーの方が性に合ってるような気がする。
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