「エロゲが8800円もする理由」〜「プライドのないエロゲ制作者たち」に関する議論まとめ

Ver1.07(2010-06-04 00:35)

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そんなわけで。エロゲ業界人やユーザーの間で噛み合ってるようで噛み合ってない話が続き、読んでいた僕の頭がおかしくなりそうだったのですっきりするためにまとめた。論旨や会話の流れに異議があれば教えていただきたい。時系列は読みやすさを優先して多少いじってある。

5月16日

エロゲ業界人N「大半のエロゲが8800円もするのは高いよな。今からTwitterでその理由を説明する。聞け。店頭価格=メーカー利益+流通利益+ショップ利益+テレカ等の販促にかかった製造費+消費税だ。流通への卸価格、製造原価、広告宣伝費、収録費用、制作費用、人件費……今のフルプライスエロゲを作るには相当な経費がかかる。だからよっぽど売れないと全然利益が出ない。あと融資の話(中略)、オフィ通の話(中略)、DL販売の話(中略)、低価格作品の話(中略)、中古の話(後略)。今のエロゲをもっと安くするには一体どうすればいいだろう? みんなも考えてみて。質問も受け付けよう」

ついったったー1「なんかいきなり業界の裏側をぶっちゃけたつぶやきが始まったぞ」
ついったったー2「なるほど、価格の内訳はこういうことだったのか」
ついったったー3「内訳を知ったところで高いという気持ちは変わらない」

5月18日

エロゲ業界人N「続いて、クリエイターの職人気質に苦労する広報営業の話をする。エロゲ業界には、売るという行為を非常に嫌がる自称クリエイターが多い。その手の人間はマーケティングの話をしても聞いてくれず、広報や営業が苦労する。作品を作る者と売り出す者がお互いを理解して良い関係を作っていかねばならない」
ついったったー5「じゃあ売れる作品とはどの様な作品なの?」
エロゲ業界人N「売れる作品なんて無い。だまってても売れるようなものは皆無だ」
ついったったー6「『給与等の待遇が悪いから、せめて作りたいものをゴリ押ししたい』というクリエイターもいるのでは」
ついったったー7「販社や流通の営業(製作・商品部ではなく)を有効活用して欲しい」

5月19日

エロゲ業界人N「今日は予算シートの話をする。8800円のエロゲを制作することを想定して計算すると、(中略)このようなお金がかかるわけだ。そうなると1,2万本売らないといけない。ただし、あくまで一例なので細かいところは端折ったしツッコミどころもある。また、経営者にはクリエイターをまとめる手腕も必要だ。あと、予算半分にして同じクオリティを保つのは非常に困難。実際半分くらいの予算で作られたゲームも世に出ているけど、売価は同じ8800円だという事実に気づけ」

ついったったー8「これは厳しいな。というか目標1,2万本て新規メーカーにはきつくね?」
ついったったー9「コスト削減とは言ってもなかなか良いアイデアは出てこないな」
ついったったー10「流通に融資してもらっている会社は、中間マージン切るような施策を取りづらいしね」
ついったったー11「今はどこの業界でも同様にこれくらいは厳しいぞ」

5月24日

元業界人R「一連のつぶやきに対して言及する。聞け。エロゲの制作コストが高いのもクリエイターの扱いに苦労してるのも、制作者側だけの都合であり、制作者が自助努力で何とかすべきだ。内情を暴露するとユーザーは夢を素直に楽しめなくなる。そんな行為をするということは制作者としてのプライドが無いということだ!」

ついったったー12「綺麗事乙。そんな余裕ないし」
ついったったー13「確かにあまり内情を見せるのは良くない」
ついったったー14「Rはユーザーサイドにすり寄りすぎだろ」
ついったったー15「Nのつぶやきは辞めた会社の話で、しかも愚痴に近い内容なのがいただけない」
ついったったー16「愚痴くらいつぶやいたっていいじゃない」
ついったったー17「暴露話自体がユーザーにとって一つのコンテンツと化している」

業界人1「Nのつぶやきに出てくる数字はいろいろおかしい」
業界人2「エロゲの価格を一旦下げ始めるとチキンレースになってメーカーが疲弊する。据え置いた方が良い」
業界人3「Nの発言には各ポジションに配慮している部分がある」
業界人4「Nは同業者のコスト意識への啓蒙、問題提起をしているだけで、そこにプライドは関係ないんじゃないか」
業界人5「別に金勘定の話をしたからと言って非難されるべきとは思わない」
業界人6「『夢を売る』は客が言うことではない。内情を曝す=同情を乞う、でもない」
業界人7「社長だったNが社員に理解を求めるのは難しい。それに、Nのつぶやきは問題提起ではなく愚痴だ」
業界人8「Rのエントリに対する業界人の反応自体が恥ずかしい。エロゲ業界や市場の未熟さを示している」
業界人9「R先生爆釣すぎるだろ……」

5月25日

元業界人R「前回のエントリに対する反応が予想GUYすぎて驚いた。オレは『業界人の打ち合わせは楽屋でやれ』と言っただけだ。詳しく説明する。黙って聞け。まず、あれは完全に業界人向けに書いたもので、ユーザーサイドには全く立っていない。ユーザーサイドから発言して、興味深いコンテンツとしての『業界人の内情暴露』が無くなり、他のユーザーから叩かれることを懸念したからだ。そもそも、ユーザーに業界の内側を相談したところで有益な答えが返ってくるわけがない。オレが想定する『今回のような議論に反応するユーザー』は、『ネット至上主義者』や『クリエイターが助かっても流通とかどうでもいいと思ってる者』たちだ。ユーザーの中に業界全体を見回してかつ建設的な意見を出せる人はいない。だから無駄だ。
本題に入る。『クリエイター全員が満足な給料を貰い、かつゲームの値段も下がってユーザーもハッピー!』などという状態は実現不可能だ。オープンな場を使い、業界人間で意見を出し合い解決するべき問題と、そうでない問題がある。売れるための施策・ノウハウは各社がクローズドに構築するもので、それができない会社は淘汰されることが業界の維持につながる。業界人Nの一連のつぶやきは、各社が自分で取り組むべき課題を業界全体の問題にすり替えようとしているようにオレには見えた」

ユーザーA「オレはユーザーだがTwitterやオフでの付き合いがあるエロゲ制作者たちの気持ちを汲み取って発言する。聞け。まずRの記事はタイトルで釣りすぎだ。そして、オレは異業種従事者からの意見が重要だと思っている。『やれることはやったけれど、今のままでは本当にどうすればいいのか判らない』という魂の叫びを送っている制作者も居ることを忘れるな。ユーザーはエロゲに興味が無くなったら去ることができるけど、制作者はエロゲ業界から脱却するのが難しい。そんな中でエロゲ業界に残ろうという前向きな意志を持つ人に対して『プライドがない』などと言うべきではない。制作側にやれることがまだまだあるというのならば、具体的に論じてみろ。最後に、オレはNの気持ちがわかる。Nの一連のつぶやきは大きな反響を呼んだ。そこから得たものを何らかの形で業界に還元することがNの課題だ。がんばれ」

通りすがりの業界人B「待て。Rの主張内容には、『業界人としての行動や言説が未熟すぎる』という視点もある。『経済行為を行うなら、いっぱしの振る舞いをせよ』、これだけでも充分批判性を持った建設的提言だ。また、消費者の提言で是正されるような市場は不健全だ。他の市場と同じく、会社側が自浄作用で改善していくべき。最後に、この業界ではユーザーと制作者の距離が近いけれど、一蓮托生ではなく領分がある。Aが言うような『制作者の覚悟』は普通のことだし、ユーザーにそこまで心配されると恥ずかしいというか『舐められている』と感じる」

ついったったー18「やっとまともに総括してくれる人が出てきた!」

ユーザーA「Rの主張内容にそのような視点もあることは了解している。しかし、その筋で進めると話が終わってしまう。もちろんWeb上での議論には限界があるし、最終判断を下すのは制作者であり、自分は制作者ではない。書いていることも自己満足に過ぎない。けれど、自分なりの回答を模索するために、こうやって思ったことを書くこと自体は悪いことではないだろう。そうやってブログで思考する過程で、制作者の話を議題とした批判のぶつけ合いをすることもあるけど、できるだけ良い方向に議論が着地するよう努力するので許してほしい。あと、自分が業界人とオフで会った経験からしても、彼らが未熟だとは思っていない」

通りすがりの業界人B「いや、もちろん議論自体は誰もが大いに行ってよい。対象があり、それを批評すべき時には、相応に読解する用意をしなければならないと指摘したかっただけだ。AはRのエントリを解釈するにあたって用意が足りなかったのではないか。また、自分が前述したことについても誤解がある。個々の制作者ということではなく、エロゲ業界、制作者全体としてコンプライアンス等の取り扱いが本当にずさんだということだ。
単純に、制作者側も消費者側も大多数が未熟である。それでは、よりよい決着がなされるはずがない。Rが批判しているのは、一企業が自浄すべき課題を他人事のようにオープンな場でやりとりするという行為には、企業倫理に関わる問題があるということだ。最後に、ユーザーサイドが、制作者側を心配するような内容を書くという状況自体が不健全で未成熟な市場を表わしている、という見方もあることを覚えておいてほしい」

ユーザーA「確かに業界全体が未成熟だと言える。ただし、その荒削りなところもオレがエロゲ業界に興味を持った一因だ。話は変わるが、今回の自分の記事ではエロゲの楽しみや魅力について書くのを忘れていた。次の記事では自分の素直な気持ちを書く。議論の続きはそのあとだ」

エロゲ業界人N「別に特定の誰かを指すわけではないけど、批判しかできない人っているよね。批判や否定は簡単だし誰にでもできる。だが、自分の意志を持って発言し、自らが状況を改善しようと努力できる人はそう多くはない。特に集団の先導を切る者にはその自分の意志に加えて決断力、勇気、判断力も必要になってくる。そして最終的に成し得た結果が成功であれ失敗であれ、それがすべてであり、経験、成長へと繋がっていく」

5月26日

元業界人R「Aに言及されたので、エロゲ業界における努力について少し真面目に話す。聞け。まず、釣りタイトルは確かによくなかった。さて、エロゲというかコンテンツ業界における努力というのは、1.非人道的でない範囲でコスト削減することと、2.同じようなコストでいかに売れるゲームを作るか考えることだ。
1について:Nのつぶやきで出てきた数字はサバ読みを差し引いても『やるべきことをやった』と言えるものではない。というかそもそも、Nは予算シートを組むと言いつつ、かかる費用から計算しているところがおかしい。予算はまずゲームの売り上げ本数を予想し、それに見合うよう設定するものではないか。2について:コンテンツ業界で利益を上げる最重要ファクターは『何を作るか』だ。それは理論ではなく制作者の資質やカンによるところが大きい。異業種経験は、肝心のコンテンツ制作部分において役に立たない。
以上の理由でオレは一連のつぶやきを『不幸自慢』と判断した。あと、これくらいストイックにやりくりしろという例を挙げてやる。一つはライアーソフト、もう一つはましろ色シンフォニーだ」

業界人10「売り上げ本数予測するのもなかなか難しいね」
業界人11「1と2が矛盾してね? 『特殊な業界だから予算シートが組みにくい』が正解」

業界人12「自分の好きなメーカー挙げてるだけじゃねーか!」
業界人13「ライアーよりもっと手堅いことしてるメーカーがある」
業界人14「いや待てこれはツッコミを例示したものに集中させようという孔明の罠だ」
元業界人R「ライアーを挙げたのは、売れないながらも文句言わず黙々と作品作ってるあそこを見習えや、と言いたかったからだ。成功例を分析して自社製品に生かすのはどこの世界でも常識だろ」
業界人15「資金力や技術力の関係で、分析しても真似できないことがある」
元業界人R「できないと判断したなら諦めるしかない」

ユーザーA「Nが例示した数字には実際と違う点もあるし、あのつぶやきに書いてあることが全てではないという前提にたって議論を進める。まず、オレとRとの間で『プライド』という言葉の定義にズレがあったようだ。ここは妥協しよう。また、ダメな作品は淘汰されるべきだということも理解できる。
しかし、制作者にも言いたいことはある。Twitterで愚痴を言うのがそんなにダメなこととは思わない。それくらい許容できる余裕やゆとりがないことが寂しい。その手のつぶやきを見るのが嫌ならフォローを解除するのがTwitterでのしきたりではないか。最初は制作者同士で交流していたところを、あとからユーザーがフォローするようになったという歴史的経緯を踏まえても、内情の話を見て不快に思ったユーザー側がフォロー解除するのが筋だ。
最後に言いたいことを簡潔にまとめるぞ。エロゲ大好き! オレもどんどん買って、プレイしたゲームは正当に評価するから! 自分がオススメしたい作品はどんどんオススメするから! 作っている人頑張って!」

5月27日

業界人S「コストの件はもう愚痴の問題からシフトしているんだよ。誰も突っ込まないけど、コストに社長の給料が入ってない。また、愚痴にも種類があり、同情を引くタイプの愚痴は醜い。さらに、Nのつぶやきが問題提起だとする言説について突っ込むぞ。一連のつぶやきからこれだけ界隈が盛り上がっているにも関わらず、メーカー系業界人の発言が少ない。それは『言わない方がいい、言う必要がない、言うまでもない』ということだろう。そうやって沈黙を守り議論に参加しない者もいる中で、Nは何を問題と認識してどう解決法を提示したんだよ! 身内で話したいならIRCでやれ」

元業界人R「オレとAの意見の相違はほとんど埋まっていない。一部は重なっているものの、それ以上に方向性の違いが大きい。それに、最初のエントリを上げた時に、周囲の怒りを受け止めつつ『世間で悪者と判断された人間には何を言っても良い』感じで一緒になってオレを批判していたAが、オレの側に歩み寄るのは周囲の心情的によろしくないだろう。とりあえずAがNのつぶやきをどう分析するのか楽しみにしているぞ。はーっはっはっは」

エロゲ業界人N「何事もなかったかのようにつぶやきを続ける。聞け。売価が8800円にも関わらず、売り上げが2000〜4000本程度で成り立つゲームについて。予算シートと利益が(中略)、融資とリスク分散が(後略)。つまり大手ブランドはコンテンツ規模が大きくコストもかかるため、なかなか利益をあげられず、中小ブランドは他のことをする余裕がないという厳しいスパイラルがある。もっとメーカーや努力した人たちに利益をきちんと還元させるシステムができるよう、メーカー、流通、ショップ、ユーザーが一緒になって向かっていければよい」

オタキング「僕が昔ゲーム作ってた時と原価は変わらないな」

ついったったー19「というか業界人Nは一連のつぶやきをどういう意図でやってるの?」
エロゲ業界人N「制作側がこのような情報をオープンにしてこなかったために変な誤解を生んでいた。前向きに情報を提供する場と考えている」

5月29日

元業界人R「経験的に、『みんなで考えよう』とか『ユーザーにも出来ることがあります(意訳:私たちはユーザーに頼ります)』とか言っちゃう制作者に限って小物。自分たちの力で売れるもの作れる人はそんなこと言う必要がないからな!! 面白いものが作れるならユーザーの意見聞いたっていいじゃないって意見もあるけど、解決策をユーザーに求めたらユーザーの想像以上のものは作れない。誰もが想像したことがないものを作れるのがクリエイターの楽しみではないか」

以降

誰かが『頭が良く、知識も豊富な俺がお前らアホどもに説教してやるぜ』とか『事実かどうかは別として、調べた事象を列挙していけばとりあえず説得力が上がるだろ』とか『詳しい事情は知らないし調べるのは面倒だけど、とりあえず自説はぶち上げたい』とか『せっかくだから俺は逆張りでブクマとアクセスを楽に稼ぐぜ!』とか『とりあえず非実在青少年規制ムカツク』とか『Twitterのフォロワーに対してポジショントークしておくか』とか『ホットなネタをダシにしつつ、レイヤーが別の話を意図的に混ぜて前から言いたいことを言う』などの理由でエロゲ業界の内情について突っ込む限り、この議論は何度でもよみがえる……

このエントリの反省点としては、とにかく長くスマートさに欠けたこと。フォーマットはRPMさんのエントリを見本としたけど、あそこまで面白くネタとして昇華できなかった。改訂して余計な部分は削るかもしれない。でも議論の盛り上がりを掴むにはこれくらいの長さの方が良いのかな。とりあえず、僕の頭はまとめる前よりはすっきりした。それだけでこのエントリを書いた意味はあった。
あと、考察。議論とはそもそも妥協点というゴールを目指して対話を積み重ねていく行為だと思うのだけれど、最初からゴールを目指してない人が多く、果たして今回まとめたこのWeb上の意見の集合を議論と呼んでいいのかどうか疑問だ。Twitterの「あくまでつぶやいてるだけ」という性質上、言いっぱなしになることは否めないし、議論に参加しているつもりもない人が多いだろうから、仕方ないことではある。
また、基本的にブログとブログ、TwitterTwitterでの対話はスムーズだけど、ブログ-Twitter間では対話が極めてアンバランスになりやすい。これもこれからのWeb上の議論において注意すべきポイントだろう。

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