ゲーム「ななついろ★ドロップス」レビュー

そんなわけで。ユニゾンシフト:ブロッサムの恋愛初心者どきどき★アドベンチャー「ななついろ★ドロップス」を終えた。ノナ(アスパラさん)→撫子(ナコちゃん)→すももちゃんという順番でプレイしたので、それに沿ってネタバレを含んだ感想を書いていくことにする。

ノナ

アスパラさんの挑発的な表情が好き。初恋の無自覚性や制御不能性に悩むノナとハル君がいじらしい。
初恋の素晴らしさの一つは、許容だと思う。じれったさや不器用さや曖昧な態度や小さな失敗といった恋愛に伴って生まれるあらゆるネガティブなものも、「初めてならしょうがないね」って許せてしまう。
例えば、ノナがハル君に言う「責任取りなさいよー」系の台詞はおしなべて薄っぺらく軽い。そもそも、女の子の方から気軽に口に出せるような責任なんて、大した重さではない。そんなものを押し付けられたところで男の子は一向に堪えない。だけど、そこには恋愛慣れした女性が戯れで言っているのではない、そんな形でしか表現し得ない彼女の愛情が感じられて、聴き心地がよい。画面の前で「うん、取るよ! 二回取るよ!」とかアホなこともつぶやけてしまう。永杜紗枝さんの声を意識して聴いたのはこのゲームが初めてだけど、とてもかわいらしくて、僕の男性がくすぐられた。
作中には『言葉』という魔法の呪文みたいなものが存在するのだが、ノナルートで説明される"言葉は、美しく正しい発音の方が効果が大きくなるもの"という設定が僕にはとても好ましい。それは、少女には美しく正しい言葉を使って欲しいという願望でもあるし、美しく正しいことを目標とするその姿勢自体にある種の少女性みたいなものを感じるからだろう。
それはそうと、パジャマの破壊力がすごかった。

撫子

ナコちゃんとハル君の初恋も無自覚なところからスタートしている。ノナとの違いは、すももちゃんとの三角関係が主眼になり、それに伴って皆が成長していくところだろうか。特にすももちゃんの成長は顕著で、以前と同じ立ち絵にもかかわらずシナリオの終盤には少し背が伸びたように思えるほどだった。
ハル君、女の子にサプライズで指輪を贈る時は、事前にその娘の友達に指のサイズを聞いとくんだよー と思ってたら案の定サイズを見誤っていた。だけど、既述のように、そんな失敗も笑って済ますことができるのが初恋なんだよね。
撫子役の宗川梗は内に閉じた、というか自己完結した声を発することに特徴があると思っている。彼女の言葉は誰に対してもどこか独り言っぽく聞こえるというか。それが[twitter:@singingroot]の発言を読んで附に落ちた。

ナコちゃんが、"「よかった。シミになる前にきれいに落ちた」"って言うときの、その嬉しそうな笑顔、優しい調子。その笑顔は誰に向けられたわけでもなくて、ただ、ナコちゃんの中で完結した笑顔として、自然にこぼれたもので。
 
相手が大切だよとか大事だよとか、それって、ただ思うだけのことであって、自分の中である意味閉じているのだけれど。でもそれがあるからこそ、間合いとか、間柄とかは、そんなに大事なことではない。
 
だからこそノナちゃんもつわぶきくんも、すももちゃんとナコちゃんが二人の世界を作っているかのような園芸部に、さらりと馴染めたんだろうと思う。もちろん、なんやかやと気を回してくれるナツメ先生のことを忘れるつもりもないですけれども。

singingroot(@singingroot)/2011年04月29日 - Twilog

ナコちゃんに自己完結性が備わっているからこそ、僕たちは彼女の言葉から「他人との距離に依らない温かみ」のようなものを感じ取ることができるのかもしれない。

すもも

すももちゃんのルートは、エピソード&シーンセレクトモードにおいて比喩ではなく中央に位置し、メインヒロインであることを示している。第10話で終わるノナルートと撫子ルートに対してこのルートは第13話まであり、ボリュームにおいても本作の中で一番長い。
すももちゃんはアスパラさんやナコちゃんと違い、自分の恋心に対して自覚的だ。彼女のアドバンテージはそこだろう。己を知る者は強い。ハル君もすももちゃんの気持ちの高まりに応じて自分の恋心を確かめていく。
すももちゃんの素晴らしさはその類まれな認識力にある。アスパラさんがアウトプットに秀でているとすれば、すももちゃんはインプットにおいて抜きん出ている。
アスパラさんは「言葉」の「発音」を練習していたけれど、それはある意味で鍛錬がし易いものだ。対して、物事を見る目と見たものを受け容れる心は簡単に鍛えられるようなものではない。すももちゃんのポテンシャルに多大なショックを受けてしまうアスパラさんの打たれ弱さも、そういうところにありはしないか。
すももちゃんは(当初)自分の気持ちを表現することを不得手としていたけれど、その分他人、延いては世界との間に起こった出来事を受け容れる広い心がある。僕たちは、すももちゃんが一日のおわりに書く日記からそれを知ることができる。
もちろんすももちゃんにも感情があるから、嬉しいことは覚えていたいし、悲しいことは忘れてしまいたい。あまりにも辛い事は一日で受け止めきれなくて、日記が書けなくなってしまう日もある。でも、できることなら自分が触れた全ての物事を心に留めておきたいと考えている。
要するに、とても優しい目で世界のことを眺めているのだ、彼女は。夜空に煌く星々を「きらきらしてて、なんだかみんなおしゃべりしてるみたい!」と言うように。きっと、すももちゃんにとって他人や世界は当たり前に善いものなんだろう。だから、あらゆるものを受け容れたいと思うし、何か良くないことが起こったときにはその原因を自分に見出してしまう。両親やナツメ先生によって大切に育てられてきたすももちゃんは、そんな優しすぎる世界観を持つ少女になっていた。
佐本二厘さんの声も相まって、すももちゃんの「言葉」はアスパラさんに負けず劣らずきれいに響く。そのきれいさは、世界に対する彼女の優しい想いが現れたものだと思う。

ハル君とユキちゃん

最後に、本作の主人公であるハル君とユキちゃんについて書いておきたい。すももルートにおいて、ハル君はいつの間にか僕の手を離れて行ったという実感がある。この感覚は、シナリオ後半でハル君とすももちゃんが並び立つシーンで特に強まっている。
だが、僕はそれが嫌ではなかった。通常表示されないハル君の立ち絵表示され、すももちゃんと視線を合わせたところでは目頭が熱くなった。彼らを他者として心から祝福した。
そうして、「お幸せに」と言いたくなるような相思相愛を見せつけられたプレイヤーたる僕は、寂しくこのゲームから去るのかと思っていた。けれど違った。エンディングにおけるすももちゃんの言葉によって、僕はユキちゃんと一緒に報われた。
ハル君とすももちゃんの初恋が幸せに続いていく限り、このゲームにまつわる僕の記憶もまた喪われたユキちゃんの中で幸せに眠り続けることができるのだ。それが、とても嬉しい。

ななついろ★ドロップス Memorial Editionななついろ★ドロップス Memorial Edition

ユニゾンシフト:ブロッサム 2009-05-29
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