小説「化物語」 感想

1

そんなわけで。西尾維新化物語」を読了した。
アニメ版を先に見ていたので、阿良々木さんの言葉が終始神谷浩史ボイスで再生された。VOFANによる挿絵がよい。ひたぎはアニメ版よりもやや幼い感じがグッとくるし、撫子は憂い顔に味わいがある。
僕が好きなキャラは原作・アニメ共にガハラさん。彼女に関してはいろいろな思い起こしがあってね。

2

テーマ、というほどではないかもしれないけど、作中で繰り返し提起されるのが「誰かを救う」ということについての問題意識だ。阿良々木さんは「一人で勝手に助かるだけ」という忍野の言葉をずっと引き続ける。しかし、最終的にはそこに留まらず、自分なりに「誰かを救う」ことへの態度を決定し、表明し、実行していく。
救われる側の話をするなら、ひたぎの父の言葉をあたるのがふさわしいだろう。

「だから――別にそれは僕じゃなくても、良かったんだと思います。たまたま僕だっただけで……、僕以外の誰でもよかったし、それに、ひたぎさんは、あくまで一人で助かっただけで、僕はそれに立ち会ったに過ぎません」
「それでいいんだよ。必要なときにそこにいてくれたという事実は、ただそれだけのことで、何にも増して、ありがたいものだ」

きっかけは"たまたま"でよい。そのきっかけをどう育むか、という話として、「つよきす」のなごみを思い出す。

レオ「世の中、”この人のために頑張る”っていう人間をみつけるのがまず難しいと思うけど」
レオ「ラッキーにも俺は見つけたからさ」
なごみ「見つけたのは運かもしれませんけど」
なごみ「あたしとこうなったのは……運じゃなくてセンパイがあたしに何を言われてもめげずに接してくれたからだと思います」
(「つよきす」なごみルート 9月12日)

化物語」作中にはたびたび"ギャルゲー"というワードが出現し、阿良々木さんがいろんな女の子を救っていく物語自体がギャルゲーに喩えられている。そういう意味でも、本作は美少女ゲームにおいて主人公がヒロインを救う・ヒロインの問題解決(の力添え)をする、という構造への示唆を含んでいる。

3

話が逸れるが、「つよきす」-「まじこい」においてヒロインが三角座り(体育座り)するCGが継承されていると見ることができる、という話を「憧れのあとさき」(「恋愛ゲームシナリオライタ論集2 +10人10説」所収)に記した。
本作に体育座りについての一文があったのでメモしておく。

忍は、もう、体育座りの体勢に戻っていた。
体育座り……それは、両腕で自分の身体を確かめるように、抱きかかえるような、座り方。
(「化物語」(上) p.403)

この姿勢についてはもう少し考えを深めていきたい。

4

けれど、世にある問題と呼ばれる類の現象は、大抵の場合、そういうものだろう――全てはあらかじめ終了していて、それにどんな解釈を付け加えるかというのが、問題と呼ばれるものの、正体なのだから。
(「化物語」(上) p.108)

秒速5センチメートル」がまさにそういう話だった。

5

アニメ版にも増して、キャラクターたちの会話がとても面白おかしかった。西尾維新氏の魅力の一つに言葉遊びがあることはいまさら言うまでもない。本作においては、阿良々木さんというツッコミがいることによって彼女たちは存分に言葉で遊ぶことができたのかな、とか思った。
僕としては八九寺とのボケツッコミや神原が放つエロ潔い言葉、撫子のあらぬ方向に深いネタ、翼とのズレた会話も好きだけれど、やっぱりひたぎさんに言葉責めされてタジタジしたい。
暴言は世界を変えてしまうから、僕はもう、どこへも行かない。

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