ゲーム「雪鬼屋温泉記」 感想

1 序

そんなわけで。ソフトハウスキャラの温泉宿経営SLG「雪鬼屋温泉記」をプレイした。
このメーカーの作品を遊ぶのは初めてだったけど、SLGは作り慣れているだろうし(失敗例も耳にしているが)キャストの桜川未央さんや青山ゆかりさん、茶谷やすらさんなどが好みだし、ということで購入した。
期待度に対して、全モードやり終えてみての満足度はやや下回った。決して面白くなくはない。つまらなかったらコンプに最低限必要な9周を終える前に投げてるしね。ただ、もうちょっと良くなるはずの部分で損している。「ベストオブなりそこねゲー2011」大賞にノミネートしたい佳作。

2 バランス

続く文章は下記のレビュー群を参考にして執筆している部分がある。
雪鬼屋温泉記の得点順コメント ErogameScape-エロゲー批評空間-
各レビュアーの長文感想を一覧するに、僕が本作の中で楽しめなかったポイントについては、どうやら他の人も問題だと思っているようだ。よって僕がわざわざ書くこともないくらいではあるが、簡潔にまとめておく。
本作をプレイしていて改めて気付いた。僕が(ビデオ)ゲーム一般に求めるのは、努力と報酬の体系が適性であるかどうかということだ。頑張った分だけご褒美がもらえる・いい結果を出したら褒めてもらえる、という仕組みがまず前提としてしっかり作られていてほしい。

実はTVゲームというのは、遊んでいる人間を『褒める装置』なんです。問題を出して、成功したら褒める。失敗したらペナルティを与える。我々はこれを『ゲーム性』と呼んでいますが、これがまさに、TVゲームという装置の本質なんです。*1

六百デザインの「嘘六百」: 時折綴る「子供にゲームをさせよ論」のコト

雪鬼屋温泉記はこの点において瑕疵がある。一番頑張った時に一番気持ちいい体験をさせてくれない。特に、効率良くプレイしようとした時にはことさらゲームから抵抗を受ける。
経営SLGにおける経営努力として、高効率化を掲げることがそれほどおかしいとは僕は思わない。しかし、このゲームは高効率化を阻むような仕組みになっている。それがどうも、最効率でプレイした時の味気なさを隠すためであるように思えてならない。そう、本作は経営効率を高めていけばいくほど物足りなさを感じるようにできている。
以下、ゲームをプレイする手続きを再現した順番で感じたことを書いていく。

3 施設設置

9つあるモードによってそれぞれ施設の初期配置が異なるのだが、あまりに人を呼ぶ気がない配置が目立つ。主人公・佐吉が先代から雪鬼屋を受け継ぐにあたって秋風さんたちが改築したという設定なんだから、もうちょっとまともにしておいてほしかった。まあ、初期配置をできるだけ壊さずに進めるという縛りプレイはやりがいあるんだけどね。
お客様の行動範囲5マス・施設の影響範囲3マスという制限、そしてマップの総面積から、安定して黒字を出せる=効率的な配置はある程度決まってくる。T字・L字・コの字・ロの字に5×1マスの客室棟を建築する方法があまりに有用で、他のやり方を実行する意味がない。離れ客室建てまくって不倫カップル御用達旅館にしようとか思っても収益上げられないし、特定の要素に特化した旅館経営で冒険することが難しい。
通路が1×1マスのものしかないから、最後の方は通路代わりに客室棟を置く始末だった(それでも余裕で店が回る)。通路はお客様の移動マスとしてカウントしない仕様ならまだ価値があったのに。
施設に関する情報が欠如しているのも困ったところで、宿泊施設と食事施設の収容数や利益率は明らかだけど、サービス施設の利益率がいまいちはっきりしない。景観施設が美観ステータスへ与える影響も不明で、とりあえず名木桜・松・竹・梅を植えとけば安定しちゃうんだよね。できるだけ入り口近くに綺麗にしたり、庭の模様に統一感を出したりしてもあまり評価されないの残念だった。

4 資金運用

名目と費用が違うだけで実質やってることは同じという項目が多いけど、それって多様性とは言わないよね。特に飲食フェアのCG差分取得するのが面倒すぎて、さすがにここはセーブデータあてたよ。モードごとに特定項目がロックされてたりするんだけど、最終的には解放されるし、そもそもやれることを少なくしてゲーム難度を上げる調整はあまり好みでない。
村興しや寄付の項目は一定期間で終了するもの、終了後も効果が永続するものがあったりするが、そういった必要期間などの情報は開示されていない。よって、攻略資料を読んでいない限り、実行したことのないコマンドを用いて長期的な計画は立てられない。
いや、分からなくてもなんとかなるのは確かなんだ。ただ、まさか最後まで分からないままプレイし終えるとは思わなかった……フリーモードの後半なんて、資金運用コマンドをほぼ全て実行しても黒字出せるから、内容いかんに関わらずONにしとけば、あとは客足や収益といった何らかの形で旅館にいいことが起こる。つまり、序盤はわからないなりに手探りでいけるし、終盤は無双状態なので大味な計画で経営が成り立ってしまう。周回プレイで得た情報を緻密に組み立てて資金を運用する必要に駆られるのは、景気状態が悪いルリコモードの序盤くらい。

5 仲居配置・仲居雇用

基本給完全固定・自動昇給なのでそのへんは楽だった。殿馬という仲居さん(CV:青山ゆかり)を客室班長に任命した時の「がんばります!」というボイスを聴くために配置連打する作業にハマってしまった。
TOM氏製作のドット絵も素晴らしい。SDキャラだけどちゃんとかわいい仕草や乳揺れが入っている。お気に入りのモブを列記すると、殿馬・錦扇・浜見島・福岡・姫野町・深町・天道・恩田・熊下・日野・木崎・長居・三島村・アメイロ・ノノ・黒ノ猫・フース、あたりになる。魔物娘好きなら、人魚娘を受付に据えるよね。
雇用する際には防犯スキル持ってる仲居さんが多かったのが気になった。清掃スキルはちょっと少なめでレア感があったな。
レベルアップの効果は劇的ではないけれど、いっぱい仲居を雇っていると一気に総合力が増すので経過画面のリアクションから体感できた、かな。

6 経過画面

文字通り泡のようにポップするアイコンは視覚的に気持ちよくはあるし、お客様が満足した声が連続して聞こえるとやっぱり気分がいい。旅館内をお客様や仲居さんが動き回る様子が見たいという欲望がなかったと言えば嘘になるけど、ポップはポップで味があるし、まあいいかな。
要はコマンド入力フェイズで実行した行動の内部処理をゆっくりプレイヤーに見せているだけなんだけど、どこで仲居さんがいい仕事をしていて、どこで苦情がたくさん発生しているか、という情報はここでしか知ることができないので見過ごすのはあまりよろしくない。これもどうかと思うんだけどね。
お客様の満足や苦情・トラブルは、それが施設や仲居の配置から必然的に導きだされたものなのか、ランダムに発生したものなのかが判別できない。したがって、プレイヤーはポップの位置と数から脳内で統計処理を行い、有意に苦情が多いポイントを見取って改善する必要がある。

7 結果画面

本作で最もプレイヤーの不満が多かったであろう点、それがこの結果画面の情報量の少なさである。コマンド入力前にどういう結果を呼び起こすか分かりづらいなら、せめてコマンド実行後のフィードバックは分かりやすくするべきだと思うのだが、そういう配慮はほぼないと言っていい。
施設面では宿泊施設・飲食施設・サービス施設の各収益合計だけは表示されるが、各店舗ごとの売上・利用客数は全く分からない。天気情報とか参考程度にしかならないものよりこっちを優先して組んでほしかったなー
資金運用項目には世代や性別といった客層ごとの狙い撃ち計画があったりするけど、結果画面にはどの客層がどれくらい来たか書いてないので、結局アバウトな出力から計画の影響を考察することになる。「やった、狙い通りだ!」みたいな成功感、ゲームから「褒めてもらった」という実感がいまいち湧いてこないんだよな。
収支のランダム要素が強いところも、あまりいい印象は持たなかった。同じコマンド入力しても1件のトラブルで全然違う結果になったりして、これはブレを用意することで安定して稼がせないようにしていると思うんだけど、まあしゃらくさい。

8 ADVパート

経過画面の合間にADVパートが挟まるという仕様は一長一短だった。文字通り仕事の「合間」にある仲居さんやお客様の日常を描くという試みには成功している。他方、どうしても各シーンが短いものにならざるを得ず、同一の話題を4回にわたって語ったりするぶつ切り感はいただけない。
特にヒロインとのHシーンイベントはじっくり見たかったし、既述のように経過画面では旅館の経営者としてポップ情報を統計処理している最中なので、そこにHシーン挟まれると気が散ってしまう。ご褒美であるはずのHシーンに対して、プレイヤーに「邪魔だな」と思わせるエロゲってなんなのって話でさ。ここも努力に対する報酬の与え方の問題だよね。
あと、イベントの解除・表示フラグに違和感を覚えた。施設配置や資金運用のコマンドを実行したあとメインメニューに戻った時に表示されるイベントが、1ヶ月につき1つしかないということ。飲食フェアのCG埋めるのがめんどくさいのもこれが原因の一つだ。別に実行した数だけ全部見せてくれればいいんだよ。
そして、ルートヒロインとのイベント進行フラグが完全ランキング依存だから、効率良くプレイするとヒロインまわりの話がゲーム内時間の1,2年目で全部消化されちゃうんだよね。イベントが前倒しになる、と言えばわかりやすいか。努力の結果イベントが「増える」という感覚がない。3年目で経営が安定するとマジ暇で、1年前に設定したしょーもないイベント(フラグの優先順位が低いと思われる)しか発生しないので「今更かよ」と思うとともにヒロインの影がどんどん薄くなる。たとえランキングが上位になっていても、ゲーム内時間で3年目になっていない限りイベント発生フラグは立たない、という仕様にしておけばこの前倒し感覚は解消されると思うのだが。
複数ヒロイン間の会話も多くはなく、基本的にルートヒロインと佐吉がコミュニケーションして、それを遠巻きに見ている他のヒロインたちが「ぐぬぬ……」と嫉妬するシーンばかりなので変わり映えもしない。
むしろ、モブ仲居さんたちのとりとめない会話を聞いて楽しむモブゲーとしてはよくできている。休憩室が「アニメ声でしゃべる仲居さんたちが集まる空間」になっていて、とても癒された。テンプレネタのメタネタとしても使い古されたメタテンプレネタなど、テキストの力の抜け具合は嫌いじゃない。

9 周回構造

ヒロインなしの1モード、ヒロインごとの7モード、フリーの1モードで合計9モードはちょっと多かった。周回プレイが超絶楽しいならまだよかったんだけど、これまで書いてきたようにどのモードでも最終的に到達する施設配置・資金運用・仲居配置の形はほぼ同じになってしまうからマンネリ感は当然生まれる。
新しいモードが出る度にヒロインが増えるというのは一見よさげに思えるけれど、逆に言うとそれまでは登場しないということで会話の賑やかさに欠けるし、登場しても(高効率プレイの場合)速攻でイベント消化されて消えていく。3年8周+10年1周より、10年4周くらいにヒロインのイベント統合してくれた方がよかったかな。
ただ、3年という期間の設定が絶妙だったのは確かで、ちょうど経営が安定して「俺TUEEEEEEE!」をやろうと思ったところで打ち切られるので、満足しきることなく次の周回へ行くことになる。10年4周だと多分2周目くらいで圧倒的強者になりすぎて飽きる恐れが出てくる。このあたりは難しいバランスなので、どちらがよいとも言い切れない。弓音が「弓音」「弓音・真」の二つに分かれてる構造はふざけてるのかと思ったけど。
劇中劇イベントは2周目以降スキップ確実なんだから、いっそフラグの優先順位を低くしてくれるとありがたかった。
引継ぎの仲居の数と資金に関しては特に不満はない。
本当に頭使って試行錯誤してコマンド工夫してっていう経営SLGらしい面白みが持続したのは杏モードあたりまでだった。ルリコモードは景気が悪くて特にやりがいがある。
未プレイの人には、攻略Wikiなどを最初から見てしまわないことをおすすめする。さすがに攻略資料ありきのプレイを前提として「底が浅い」とか言うのはナンセンスだし、実際僕も3周目くらいまでは攻略見ずにやったからね。結果画面のフィードバックがもっとしっかりしてれば攻略情報なしでストレスなくプレイできたのになあ。
周回するごとに設定が明かされる、という点は概ねよかった。特に、最初はよくいる好青年タイプかと思っていた主人公の過去がだんだん明らかになっていくにつれ、昔から女癖が悪かったことなんかを知ることができて新鮮だった。

10 ランキング

このゲームをプレイするモチベーションの中で最後の砦となるのがランキングだろう。通常のランキングは上位を取るのが簡単で、高効率な経営を進めれば100位以内はまず余裕、5位以上は3年だと時間が足りないといった印象。裏表ランキングだけは、10年の期間があるフリーモードでなければ1位を取ることが難しいと思う。ただ、本当に時間の問題だけなので、ランキングを取るための準備は5年以内に終わってしまうんだよね。僕の場合はフリーモード4年目で表ランク1位、10年目6月で裏表ランキング1位だった。仲居さんを雇いまくって人海戦術で乗り切った感じ。チャートは限界突破。限界突破するってことは裏で数字は計算してるわけで、それを明らかにしてくれよと思う。
裏表ランキング1位を取ってしまうと、あとはもうイベント埋めるだけの作業モードになってしまうので、モチベーションはかなり下がる。10年目とか1ヶ月ごとの調整すら面倒になって、「翌月へ」ボタンを連打するだけになってしまった(くどいようだがそれでも十分な稼ぎが安定して入ってくる)。ちなみに、フリーモード終了時に手元に残ったのは50億円だった。10年間で196万人集客とか、この旅館尋常じゃない。

11 おまけ

このゲームに限らず、シーン回想モードのテキストは既読フラグONにしてほしい。登録された時点でその文章は一回読んでるんだからさ。ましてやこのゲームはキーボードフリーの未読スキップないんだし。CG鑑賞も一つ一つの絵をクリックしないと「NEW!」表示が消えないのが少々めんどくさかった。
クイズやおまけテキストはよかったよ。

12 結

1週間ぶっ通しでやる程度には面白かった。
プレイしていると、自分の経営者としてのスタイルに気付く。旅館の質を上げていくに従って価格も上げていくべきなんだろうけど、「俺はこんな価格の旅館行けないよな」とか「段々値段を釣り上げていったら初期の価格を知ってる人からよく思われないよな」とか思って躊躇しちゃう。もしかしたら経営SLGに向いてないのかもしれない。
終始覚えていたのは、効率の良いプレイをするために必要な情報を与えられない暗中模索の手探り感で、僕はこれを面白さとは認識できなかった。他のレビュアーによると、ソフトハウスキャラのゲームはだいたいそういう仕様らしいので、今後の購入・プレイを躊躇してしまう。
原画家はメインの佐々木珠流さんもよかったんだけど、鬼娘や人魚娘がかわいかったのでかごのとりさんを、劇中劇の絵がエロかったので明音さんを、それぞれPixivでお気に入りに登録した。
僕のようなソフトハウスキャラビギナーでも、本作は少しプレイしただけでメーカーが持つ総合力の高さが窺い知れ、それだけにもっとうまく作れたような気がしてならない。
どこもかしこも「次善の策」が適用された感じはあって、限られた時間の中でゲーム制作をする上でその対応力は大切だと思うけど、やっぱり理想には及ばない次善でしかないんだよなあ。「ベストを夢見ながら現実をベターに変えていく」という僕の座右の銘の一つ、その言葉の限界を見た。

雪鬼屋温泉記雪鬼屋温泉記

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*1:引用部分について、六百さんと僕の主張内容は違わないかという指摘がエロゲー批評空間のコメント欄にあったことを追記しておく。http://erogamescape.dyndns.org/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=15070&uid=highcampus