ラノベ「キノの旅」 感想

そんなわけで。先日、発刊から10年経った作品、時雨沢恵一の「キノの旅―The beautiful world 」を読んだ。

キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))

キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))

王ドロボウJINGとの対比

一組の人間と非人間が旅しながら様々な国を訪れ、その国の特徴的なルールや人物に触れる。そして時にはそれらの特徴に干渉したり、何もしなかったりする。1つの国の物語で1編が完結する、短編連作形式。
この手の構成は好物だ。そして、上記のような構成から、僕は講談社の漫画「王ドロボウJING(KING OF BANDIT JING)」を思い出す。

KING OF BANDIT JING(1) (マガジンZKC)

KING OF BANDIT JING(1) (マガジンZKC)

本格的に「キノの旅」と「王ドロボウJING」を比較したエントリを検索したけれど、見つからなかった。そこで、軽く二つの作品を対比しておこう。こうして両者を比べることで、キノの旅の特徴を捉えることができればいいな、と思う。
ただし、僕は「王ドロボウJING」は全巻読んでいるものの、「キノの旅」は第一巻しか読んでいないので、比較がアンフェアになっているかもしれない点には留意していただきたい。

比較表
キノの旅 王ドロボウJING
短編 中編
冒険活劇的でない 冒険活劇的
静か 賑やか
無目的 有目的
ヒロイン的人物なし ヒロイン的人物あり
形式

二つの作品の違いは、けっこう形式的な違いによるところが大きいと思う。中編では、面白くするために物語をある程度動かす必要があるのに対して、短編ではそこまで話を二転三転させなくてもよい。しばらくページをめくれば物語は終わるんだから、スピード感はそこまで求められていない。故に、「キノの旅」はわりとゆっくりとしたペースで物事が進む。

要素

また、「王ドロボウJING」は冒険活劇的な要素を含む。1編ごとに、その舞台を訪れる目的である「お宝」が存在し、(007シリーズにおけるボンドガールのように)ジンガールと呼ばれる女性キャラが登場する。これらの要素が物語を回転させていくことで、冒険活劇的な面白さ、賑やかさが生まれる。
対して、キノにはそのような要素は少ない。目的があって国を訪れるということはほぼなく、旅をすること自体がキノの目的となっている。キーパーソンは出てくるものの、ヒロイン的役割を与えられることはない。そもそも1つの国の中でキノと会話する人間が少なく、たった一人だったりすることもある。JINGの賑やかさに対して、キノには静かさがある。
キノは、旅する国で起きている出来事については受動的であり、積極的に干渉して解決しようということはほとんどなかった。それが、その国の特徴を如実に現すことになり、浮かび上がるテーマが読者を唸らせる。

その他

第四話「コロシアム」

以上のように、「キノの旅」は全体的に静かな物語である。ただし、第四話「コロシアム」が例外であり、ここではガンアクションのバトル要素がふんだんに含まれている。パースエイダー(銃器)も、この話においてはかなり詳細にディティールが描かれている。キノが当該国へ積極的干渉することもあり、正直この話だけが本作の中で浮いている気がしないでもない。もちろん面白いのは面白いんだけどね。
第四話に登場するキャラクターは続刊でも登場するということで、そういう意味でも特殊なエピソードかもしれない。
あと、この話はJING読んだことある人なら「ザザの仮面舞踏会」編を思い出すだろうな。本筋から外れるので、ここでは細かい比較はしない。

口絵

本作の挿絵・口絵は黒星紅白さんが担当している。特に口絵が良いね。初見ではよく分からない絵だけど、本編読み終わった後に見返すと、ああこういう意味だったのかって納得するタイプ。話が話だけに感慨深いんだよな。特に第四話の口絵とか。

寓話的要素

Wikipediaによれば、本作は"ライトノベルにおける「寓話的異世界物語のさきがけ」とされている"。ソースは榎本秋の「ライトノベル文学論」。
本書の説明に"今までにない新感覚ノベル"と書いてあった。僕なんかはJING読んでたこともあって、それほど新感覚ではなかったけれども、ラノベ界隈ではこういう作品は当時珍しかったということだろうか。また上記の本も読んでみたいね。

静かな物語ではあるけれども、ゆっくり確実に心に迫るものがある作品だった。続刊も時間を見つけて読んでいきたいと思う。

ライトノベル文学論

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