ゲーム「きみはね 彼女と彼女の恋する1ヶ月」感想

そんなわけで。BasesonLightの日常系ガールズラブAVG「きみはね 彼女と彼女の恋する1ヶ月」をプレイしたので感想を書くよん。
本作の広報が始まった頃に、さる筋からうつろあくた氏の新作であり自信作であるとの報を受けた。ガールズラブゲーは数年やっておらず、この手のジャンルはあまり自分からは探索しないため、たまには外部のおすすめで遊んでみるのもいいかと興味を持って購入した。3000円以下だったのと、原画がMtU氏だったのが大きい。MtU氏のイラストはTwitterやpixivで見ていて素敵だなと常日頃から思っていたので親しみやすかった。

意匠とシステム

ゲームを始めると、クリスマスカラーのシンプルな画面がお出迎えしてくれる。統一感ある意匠がよい。
スタートするとシナリオ選択画面になり、クリスマスリースにあしらわれた誰かの「クリスマスの記憶」を選ぶことになる。最初は「夏目陽菜の場合」のみ選択可能で、陽菜-文と倫-陽菜の2つのカップリングルートを辿ることができる。選択肢は、文章ではなくアイコン(アイテム)を選ぶ方式で、例えば最初はトイカメラと封筒のどちら(にまつわる話)を見たいかを問われるのが面白い。アイコンの横にはそれがどのカップリングの話に至るかもイラストで表示してくれているので安心して選ぶことができる。
1ルート終えるごとに「浅生文の場合」「緒方倫の場合」が解放されていくようだ。僕のプレイ記録からすると、おそらく「夏目陽菜の場合」と「浅生文の場合」は冒頭の「クリスマスの記憶」部分が異なるのみで後の内容は同じ。なので「夏目陽菜の場合」で1ルート終えたら、2周はせずに「浅生文の場合」を開始してそこから別ルートに行けばよいと思う。「緒方倫の場合」は選択肢がなく、カップリングは文-倫固定になっている。そして、全てのエンディングを見るとタイトル画面の変化とともに4つ目のクリスマスリースが選べるようになり、最後のお話が語られる。

お話

本編はクリスマスに向けた女の子たちの恋とそれにまつわる日常を眺めるお話。
学生寮の部屋を中心としてこじんまりと繰り広げられる会話が心地よい。

陽菜-文:プリンセス・ブライド・ストーリー

彼女と彼女は幼い頃に天使を見た。そんな夢のような記憶は、たとえそれが真実だとしても(だからこそ)、大人になるにあたりどう扱っていいのかわからなくなる。
けれど、二人は健やかに互いの思い出を持ち寄り、成長につきまとう不安な心を溶かしていく。恐れることはない、大人になることには恋の喜びだってあるから。陽菜は文の新しい天使になり、倫は二人の天使(キューピッド)になる。ここにおいて天使は多義的で、それがなんだか賑やかで嬉しい。誰であっても人の善性に「はね」は宿るとされているようで。
"大人になることは夢を見ないことじゃない"。かつてのクリスマスの記憶を穏やかにフェードアウトさせながら、王子と姫君は新しい夢を創り始めていく。

倫-陽菜:マイライフ・アズ・ア・ドッグ

じゃれあいから始まる恋もある。ささいな成り行きから倫の煌きを見つけてしまった陽菜が、女の子同士に戸惑いながらも自分の好きを育てていく。人に好かれ慣れない倫は、ぐいぐいすり寄る陽菜に気持ちが押し倒されそうになってしまう……なんと贅沢な悩みだろう。
陽菜は倫の犬になり天使になる。だから倫は家出した犬を叱らないといけないし、犬への愛情を示さなければならない。好かれ慣れてないのに加えて実は好き慣れてもいない倫が好きを口にするのを恥じらうのがたまらない。

文-倫:誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう

恋人としてリードする側になろうと努める倫を、文はかわいいと言う。攻め受けどちらにもフレキシブル、というのは既に文が倫を包容しているってことだろう。ただでさえ色っぽい文が情事に開眼してしまったシーンは、このゲームの中でも一番のいやらしさがあってドキドキしてしまう。戦闘的な天使もいたものだ。
倫がお父さんで文がお母さんという家族ごっこをよくやる子たちだけど、本当にスイートホームを作ってしまった。ここまでのどのお話でもそうだけど、カップルを見守る役目の人がなんだかんだ言いながら祝福してくれるのが嬉しい。

誰もが-誰かを:天使の詩

最後のお話。章タイトルの怒涛の映画パロディも面白い(映画ネタは全編を通してテキストの随所にもある)。
このゲームのとある仕掛けは陽菜-文あたりで気付いたけど、その仕掛けを使った展開はワンダーに満ちていた。三人の女の子たちが三組の恋人たちとなって形作る三角形の美しさ。*1 *2どのカップルを眺めても観測は干渉にはならず、彼女たちは幸せに暮らしている。ところで、祥子さんが重要なキャラではあれ最後までほぼ何もしないところがよい。
そして、天使は堕天した。しかし、その堕天の、なんと昇天に似ていることか。翼を捨てた彼女が降り立った、そこが天国だった。
天国はここにある。人の心が織りなした夢のような物語が、そう信じさせてくれる。

おわり

快い短編だった。うつろあくた氏参加作品は「sense off」「虜ノ姫」くらいしかやっていない。それらとはまた色の違う作品であるし、宮本あかり氏との分担部分等はわからないものの、氏自ら自己ベストを誇るだけあってガールズトーク部分は楽しかった。MtU氏も立ち絵・一枚絵ともにかわいく、時に扇情的で素晴らしい。BGMは数こそ少ないが良曲ばかりで、タイトル曲「きみはね(You are --)」やエンディング曲「恋人たちの凱旋(Triumphant return of lovers)」など曲名も洒落ていて好み。
Webアンケートで今後の展開も示唆されていたので、次に繋がればいいね。
きみはね 彼女と彼女の恋する1ヶ月

*1:http://highcampus.tumblr.com/post/109204261592/utsuron-twitter でいうところの"閉じた系"を連想させる。

*2:あえて言うなら、文-倫が仕掛けのネタばらしの都合上からか3番目に解放されて選択肢なく進行するのでやや「重み」が増してしまっている印象はある。真なる正三角形にはなっていないかもしれない。