ゲーム「夏ノ雨」 感想

1

そんなわけで。CUBEのADV「夏ノ雨」を終えた。
点数で言うと68点くらい。今思うと原画に印象深いものがなかった。兼清みわもカントクも嫌いではないけど、パッとせず。HシーンはCUFFS系列らしい危うい淫靡が漂っていてよかった。
エロゲー批評空間の各レビューで「タイトルは『夏ノ雨』だけど雨が重要なモチーフとして使われるでもなく、なんだかなあ」と言われてて、これは僕も結局わからなかった。タイトル画面も青空だし。OPムービーの葛藤シーンとEDムービーの冒頭は雨降ってたけど、作品に一貫して雨のイメージがあったとは言えないなかった。

2

理香子。よく苦悩しては家出する難儀な娘。中盤以降、彼女の方から求めることが多々あり、「彼に……抱いてもらってる時が、一番安心できたの」などという台詞からも不安定な精神気質が伺えたが、何とか持ち直した。共通ルートで開き直って「私はあなたのお姉ちゃんなんだから」とか言ってた頃が一番かわいい。
理香子ルートは現実よりの世界設定で恋愛・家族ものをやった結果、昼ドラ・ホームドラマめいた展開に。しかしツッコミビリティ閾値を超えてしまい冷めてしまった。
とりあえず夏子と理香子まわりはソーシャルワーカー精神科医案件なのでは。物語におけるキャラクターの精神的な悩みとその解決について「病院へ行け」というのは無粋かもしれないが、無粋なツッコミをさせるこのお話が悪い。
紺野アスタのサイトとブログを見に行ったら「キャラクター一人一人を愛している」という趣旨のことが書いてあってやっぱりなー と思った。プレイしていてすごくそういう感じはした。自分が愛するキャラクターをプレイヤーに嫌われないようにするための配慮が見えたからね。*1
夏子は序盤からあえてプレイヤーにストレスを与えるキャラとして描かれている。で、実は彼女にも深い事情があって……というところでストレスが解消されるように作ってある。詳しいプロセスはa103netさんのレビュー参照(http://erogamescape.ddo.jp/~ap2/ero/toukei_kaiseki/memo.php?game=12437&uid=a103net)。
ただ、僕はそのプロセスを経ても全てのストレスを解消されたわけではなかった。彼女はかつて心の病気で、と言われたらそりゃあ振り上げた拳は下ろさざるをえない。さすがに病人は殴れないから。でもそれって諸刃の剣で、「病院へ行け」っていう無粋なツッコミが入る余地を作ってしまってる。夏子は発症→療養→社会復帰→発症なので、普通に精神科で根本的治療をうけるべき案件だよ。
僕の中では夏子・理香子関連はもはや家族問題じゃなくて社会問題と化してるので、適切な行政機関に相談して援助受けた方が……と思ってしまう。総じて宗介-理香子-夏子-朋美たちは自分たちで処理しきれるかかなり怪しいレベルの問題を家族内で処理しようとしすぎる。夏子の療養先も実家(宗介からすると祖父母の家)だったし、人間を回復させるものが家族しかない世界観みたいだ。
法とか社会への距離感が遠いのよなー。ラストに示唆される姉弟間の婚姻もいわば脱法的なものでさ。法・社会は助けにならず、時には自分たちの繋がりを阻害するものとして存在し、そんな中で家族や身近な人たちと優しく助け合っていくしかないという認識が作品に通底してるように見える。
もうちょっと家庭外の人間が宗介たちに介入する、あるいは援助する展開があればよかったのだが。せっかく翠たちがいるのに、理香子が家出した時の避難先くらいにしか役立っていない。
そして理香子は、エピローグを読む限り、家庭内に居場所ができたことと社会に居場所ができることを混同してるんじゃないか。家族として承認されたことで所属欲求が満たされたみたいなのでまあよかったんだけど、この娘の欲求って家庭よりもっと広い、友人・知人・果ては社会に居場所が欲しいってことじゃなかったの? 冒頭で街を見下ろしてここに居場所ができるか心配してたから、少なくともあそこに広がった風景程度の尺で考えていいものだと思っていたんだけど。いまいち釈然としない。

4

美沙ルート。澤田なつ、よい。デート中「どこへ行きたい?」と聞かれ、「…………」というテキストに音声のみで「ラブホテル」と囁くところが凄まじかった。全編このルート程度のシリアスさでよかった。
翠ルート。この娘いいやつすぎる。作中他ヒロインのルートでも宗介にとっていいように動きまくる。お話も作品内では比較的よい。志が高い子には惹かれる
ひなこルート。(ふーりんの声が聴けて)幸せです! 他ルートでも出番があるとよかったね。

5

サブキャラ。香奈が作中でジョーカーレベルの便利さだったけど、理香子に惚れた弱み、というところで無敵感減らしてバランス取ってるところは巧いと思った。
一志は、作品の価値観が彼の価値観に寄り添ってる。つまり、一志が言ってること(「本気で好きならしがみつけよ」)が作品の主張と近しいということ。だからこのゲームが好きな人は一志も好きなはずで、人気あるんだろうな、と思った。
このへんで夏子と並んで二大ストレス源になってるサッカー部監督について。1ルートだけで判断はよくないかと思ってたけど、結局4ルート全て終えても「宗介の起こした事件後に関係者全員を集めた話し合いの場があった」ことを確認できなかったのでこの人ダメだという認識は覆せず。
普通あの手の事件があったら、顧問・監督・部員、場合によっては保護者も含めて部の全員が集まって事件の経緯から今後の対応まで後腐れないよう話し合うもんだと思うんだけど。そしてこの話し合いは宗介の意志に関わらず行われるべきなので、宗介が不参加だろうが関係ない。
監督の役回りは宗介の甘さの克服なので、監督宗介間のコミュニケーションで受けるストレスは仕方ないかなと思う(宗介も態度悪すぎなので6:4で監督が正しい)。ただ、宗介の甘さと全く関係ないところでやるべきことができてないから、監督の言葉に説得力があまりない。
特に翠ルートの「宗介は退部ではなく休部扱いだったが、監督が顧問の先生に口止めしていた」はひどすぎる。「人を試す」ということには相応の慎重さとフェアネスが求められると僕は思っていて、そこからすると事実の隠蔽は完全にフェアネスを欠いてる。
他ルートでもそうなんだけど、宗介の今後について戻れるなら戻れる(可能性がある)、戻れないなら戻れないをはっきり関係者全員に通告すべきだった。実際は監督の胸先三寸で復帰という、それどうなのよ的な形に。
いや、いるけどさ、「お前の態度次第では考えなくもない」って形式上は相手に責任を転嫁しつつ自分の線引きで物事決める権利は保持したままの奴は。ただ、そういう人と折り合い付けられるようになるのが成長、という筋でお話作りたかったとは思えないのね。恋愛のサイドストーリーとしてはごみごみしすぎる。
顧客が本当に欲しかったものは「うーん、これは8:2か9:1で主人公が悪いなあ。泥臭く頭下げてお願いするしかないよなあ。それも一つの成長やで」と思わせてくれるような監督像だった。
bbspinkの作品別スレで監督批判のレスを探してきた(このあたりでどれほど僕が怒っているかお察し)ので掲載しておく。
http://highcampus.tumblr.com/post/29916695394/539-sage-2009-10-29-00-59-28
http://highcampus.tumblr.com/post/29915471295/174-sage-2009-10-01-23-19-58

6

理香子・夏子まわりの家庭観・社会観に違和感があり、監督の不快さでだいぶ気分を損ねた。

というwrydreadさんの感じ方は頷けるところで、結局ダメな大人の中で寄り添い合う子供たちを愛おしむ作品だったのかな、と思う。
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*1:しかし、夏子はともかくサッカー部監督は失敗している。