ゲーム「聖もんむす学園」 レビュー

1 序

そんなわけで。Vanadisの新作「聖もんむす学園」をクリアした。
公式サイトには"俺(人間)と彼女(魔物)の異文化コミュニケーション"、"種族を超えた友愛を手に入れ給え"とあるけど、実際には種族の壁なんてなかったというのが第一印象。
以下、「プリンセスX」の感想を踏まえて。

2 作風

シナリオ。種族の壁なんてなかった、は言いすぎかもしれないけど、超えるべきハードルが低いことは確かだ。そもそもVanadis「魔物娘」シリーズ世界の人間と魔物には絶望的な断絶がない。
魔物の精神性は人間とほぼ同じ。学び舎の魔物娘たちが繰り広げるガールズトークなんて、目をつぶって聞けば人間のそれと変わらない。プリインストールされた魔物の常識は人間と異なるが、それも人間からしてみれば驚きはするものの許容の範疇。言語が人間と共通のものであることで意思の疎通がだいぶ捗っている。キャッチコピーの"異文化コミュニケーション"はそのまま、人魔の境界が文化レベルの違いでしかないことを示唆している。
世界設定の話で言えば、Vanadis「魔物娘」作品における人間と魔物はかつて戦争を行った過去を持つ。しかし「戦争」とは利害調整の果てに発生するものであり、そこには利害をやり取りするだけの余地がある(あった)ことを意味する。少なくとも「殺戮」、種の存亡をかけた殺し合いではなかったようだし。
これだけ条件が整っていると、前提として人魔共存が不可能だとは思えないんだよね。いや、実際作品内で時代とともに共存の流れはできていくんだけど、最初から可能だとわかってるから共存実現に伴うカタルシスが薄い。不可能を可能にするのではなく、おそらく可能だが過渡期なのでまだごたついている問題を処理する形になっている。
僕の好みは「相互理解など到底不可能な相手をそれでも想わずにはいられない」だったりするので(このあたり、今木さんに影響されている)、この作品の雰囲気はいささか微温的だった。そういうゲームじゃねーからこれ、というのは最初から承知していたことではある。

3 恋愛、魔物娘の精神性

人間と魔物娘との恋愛については「ならでは」の要素がもっと欲しかった。だってこれ、シナリオのほぼ全体を通してヒロインを人間の女の子に交換可能でしょ。
コメットはドールだから人間との間に子供が生めないとか、細かいところでは魔物娘ならではの要素が話に絡んでくるんだけど、それらも1ギミック、1ガジェットに留まってしまい、連結して「魔物娘の恋愛」を形作ることに貢献しているとは言い難い。
ここにおいて、魔物娘の精神性を人間に近づけたことが裏目に出る。人間と魔物娘との恋愛が実質的・精神的には人間と人間との恋愛になってしまっている。そうして見ると、恋愛の過程であまり大したことはやってないんだよね。
主人公シンクがルートヒロインとコミュニケーションする過程ですれ違いが発生→他の魔物娘たちの話を聞くことでシンクが反省→「ごめん悪かった」「いえ私こそ」で解消、という流れが何度もあるんだけど、このへんしょうもないなーと。
人間と魔物の恋物語が人間同士のそれと交換可能、ということ自体が(人魔の境界は既に取り払われているという意味で)素晴らしい、と擁護できなくはない。しかし、さすがに強弁ではないか。
言い方を変えればね、こと人間同士の恋愛描写に優れたエロゲーってのはこの世にいくらでもあるわけだ。で、この作品内で描かれた人間と魔物との恋愛が人間同士の恋愛と大差ないなら、当然その恋愛は既存の作品における恋愛と同じ視線で見られることになる。場合によってはには他作品の優れた恋愛描写と比較されることだってあるだろう。果たして今作の恋愛描写はその視線に耐えうる強度があるか? ということ。
シナリオに関しては厳しめの評価をしたけど、ところどころよかった部分もあった。僕としてはミリータルート終盤あたりが好ましかった。「他者に迷惑をかけてしまう」というミリータの悩みと、「人間に害を与える」という魔物の本質(マイ定義。念のため)が近しいから、あれをもうちょっと掘り下げれば「魔物娘の恋愛」が描けるように思う。

4 魔物娘の身体性

精神性を人間と区別することが難しい以上、Vanadis作品における人間と魔物娘の一番の差異は身体性・肉体性に見出すしかない。
幸い、このメーカーはぶぶづけの原画を中心にして魔物娘の身体性を描くことに長けている。魔物娘としてスタンダードでわかりやすいキャラクターデザインを前提として、Hシーンのプレイ内容やイラストの構図は独創性があり、魔物娘「ならでは」のよさを感じる。
シナリオに関しても、身体性を基点に置いたほうがよいのかもしれない。「人間に害を与える魔物」から加害者と被害者、あるいは強者と弱者、はてはSとMの構図を導き出す。すなわち、「人を傷つける魔物」と「魔物に傷つけられる人間」。
今作でも、シンクは各ルートで試練のような形式で肉体的に痛い目にあうことが多い。それはよい。たとえ魔物の力によって傷ついてもヒロインのために何かを成し遂げようとする主人公の姿は単純にかっこいいし、魔物娘ものの王道ではある。
圧倒的な身体能力や異能によって人を傷つける(可能性がある)魔物を、人は愛することができるか。人間と魔物との間の壁って、異文化とかそういうことじゃなく、結局この不均衡なパワーバランスなのでは。
問題はその身体性を発揮する場の作り方で、ここにはまだ伸びしろがある。
典型的な例は学園外部のモブキャラの素材不足。これはヒロインの立ち絵バリエーションとの間で優先順位を付けた結果だと思われるので仕方ないけれど、シレーネやビビのルートに盛り上がりが欠けた要因の一つ。
あと、主人公を傷つけるのはヒロイン自身の方がいい。ヒロインの出自である一族の誰か、とかじゃなくってさ。ヒロイン以外の魔物なんざにいくら傷つけられても「痛く」ないわけよ。他ならぬ彼女から受ける苦痛だからこそ刺さるのであって。「スライム&スキュラ」のラキスさん、あれが理想(過去にやったから今回は別のネタにしたという見方もできるけど)。

5 キャラクター

シンク:英語にすると「think」なのだろうか。身体性が大事だという話をしたところでこういう名付けされると困る。とはいえ、肝心なところでは足を使って行動するタイプの主人公だからそれほど不満はない。むしろ思慮不足で飛び出す場面があったりしてそっちの方が危ない。
リン:嫉妬深さはいいんだけど、自分のルートでシンクを拒絶する流れは残念だった。
シレーネ:思いの外よかった。方向さえ誤らなければしっかりしたいい娘だし。Hシーンでは意外な正常位が見られた。
ビビ:立ち絵の下乳がよい。自分のルートに入って初めて愛を理解するこの娘が、他のルートで愛だの恋だの口にする時どんな気持ちなんだろう、と想像せずにおれない。
コメット:一番可愛い。この娘は「つよきす」のカニみたく、文・絵・声等が絶妙に噛み合った結果生まれた、いわば奇跡の産物という感じがする。けっこうピーキーというか危ないバランスで成り立っている。スラング担当でパロネタも口にするけど、これ以上やると鬱陶しいな、というギリギリのところで踏み止まれているし、話し方もギリギリ鼻につかない。Hシーンは「後背位ではキスができない(やりづらい)」という長年僕が悩んできた問題を、身体を分解することによって解決したことが素晴らしい。
ミリータ:ラミア族は安定してエロい。いい子なだけにアクが強い他のヒロインに押され気味だったのが悲しい。
ヴェーラ:僕はラキスさんが好きすぎるから、母親と比べると……というところはあるけど嫌いではない。
キューテ:素敵な先輩教師のお姉さん。立ち絵もそそる。
ファム:正体はすぐわかるけど攻略がafterまでおあずけなので辛い。
他、歴代作品の登場人物が影に日向に現れて助けになってくれるところは、「ラミア」以降のシリーズ全作をプレイした者として胸が熱くなった。過去作ヒロインの娘さんを攻略するというのは不思議な感慨がある。

6 他

graduationのシンクは京アニKanon」ばりに全ヒロインの問題を解決したってことかしら。すごいな。
ヒロインの立ち絵は総じてハイクオリティ、魔物娘の身体に制服・私服を合わせるセンスもあって非常によかった。
音楽も過去作から継続して磯村カイ(TONAKAI sound works)が務め、シリーズものとしての統一感があった。
特典の「リンの翼膜」はいいアイデアだった。肌触りもよし。

7 結

念願のフルプライス魔物娘エロゲが世に出たことは喜ばしい。自分の魔物観からすると望ましくないところもあったが(僕はクトゥルフ擬人化系人外娘をもっと切り開くべきではないか。「沙耶の唄」「這いよれ!ニャル子さん」は好きなわけだし)、HシーンなどVanadis魔物娘シリーズならではのよさも堪能でき、そこは満足している。
今後の魔物娘シリーズのさらなる発展を祈る。
聖もんむす学園[アダルト]
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