小説「ラン」 感想

そんなわけで。森絵都著「ラン」を読了したので感想を書くよ。
本作でメインとなるのはマラソン。42.195キロのフルマラソンを走ることが話の軸になっている。これにもう一つの軸、死後の世界における死者との交流が加わって物語が動いていく。そんな感じ。
前もってあらすじを知ることは全くなかったんだけど、奇しくも先日最終回を迎えたAngelBeats!を想起させる設定(転生を待つ死後の世界が出てくる)だった。
死後にも人間として存在を許される世界があるとすると、一度目に現実世界から死別することの扱いが軽くなるなー という基本的なことを改めて思った。そして転生が実質的な「死」になり、泣かせるポイント。言葉を換えただけでやってることが変わらないとは言えそう。それでも、なかなかジーンとするものがあったことは確かだ。
「ラン」は転生するにあたって、現世で得た人格が「溶けて」いくところが悲しい。しかしこれ、老人が認知症で曖昧になっていくプロセスと似ているんだよね。そういう意味では、環と紺野さんは同じようにそれを経験したと言えるかも。経験するのが超常世界か現実世界の老人ホームかの違いだけで。その筋で、環と紺野さんの絆が裏打ちされているというとらえ方をしておく。
好きな台詞は、"「私の感動は私だけのものよ。誰にも寄生させやしない」"。
森絵都らしい、優しい死生観を備えた物語だった。