Ver 1.03(2010-06-21 15:00) 細部を追記・修正 関連リンクを追加
序
そんなわけで。美少女ゲームにおけるTrueルートについての一考。以前Twitterのサブアカウントで書き、ニコ生でも話していたことのまとめ。議論が10年分くらい周回遅れな気がする……誰かもっとスマートにまとめたエントリを教えて下さい。
このエントリにはルート構成的な意味でのネタバレが含まれる。該当作品はリトルバスターズ!エクスタシー、真剣で私に恋しなさい!、素晴らしき日々〜不連続存在〜、月姫、Fate/stay night、Se・きらら。
関連リンク(2010-06-21追記)
コメント欄等で教えてもらった関連リンクをまとめておく。
前提
ADVゲームのルート構成として、最低でも以下の4つは違うものとして認識しておきたい。特に3と4。
- 1ルート
- Trueルートなしの複数ルート
- あくまで平行世界のうちの一つとしてTrueルートがある複数ルート
- 個別ルートの総括としてTrueルートがある
1
歴史的経緯をあまり踏まえられずに書く。Trueエンド、グランドエンドみたいなものが最後に用意された(シナリオ重視系)エロゲがよく見られる。*1んで、Trueルートを置いてしまうと、個別ルートが霞んでしまう問題がある。
例えばリトバス。Trueルートがその他の個別ルートを総括してしまう(前掲した4のタイプ)。言わばカッコでくくるようなもので、Trueルートの中に個別ルートが含まれた結果、Trueが高次、個別が低次という重みづけをなしてしまう。これは、ある個別ルートが好きな人にとってはたまらない。
「正史」という圧倒的な暴力の前に、「偽史」はどうすることもできない。でもそんなんでいいのか? 僕が好きなあのルートは嘘っぱちだったのか? あの娘との思い出は偽物でしかないのか? →「お前の人生だって、本物だったはずだろ!」と強引に信じるしかないっぽい。
2
ちょっと脇道にそれてまじこいの話。まじこいのグランドエンド的なルートは公式に「ラストルート」という呼称がついている。これはゲーム進行上メインヒロイン全員をクリアしてシナリオロックを解除する必要があるという意味での最後のルート、以上の意味を持たないと僕は思う(前掲した2のタイプ)。*2
まじこいの魅力というのは一言で言えば「それはそれで(よし)」であって、どのような選択肢を経て人生を進んでいっても僕たちは明るく楽しくやっていけるんだという価値観の提示だ。偽史なんてない、自分が信じて進む道が常に正しい。だからルート間に構造的な意味での従属関係があってはならない。*3 *4
3
素晴らしき日々の話。最終的に、ゲームの世界観としてTrueと言えるルートは存在せず、どのルートでも「お気に入り」にしたものを信じることが可能だということが分かりやすく提示される(一応前掲した2のタイプが近い)。これをどう捉えるかが大事だと思うんだよね。僕は「もう何も信じられない」ではなく「何を信じてもいい」んだと受け取った。
4
月姫は、あまりTrueルートから正史っぽさを感じなかったんだよね。まず、アルク・先輩ルートと遠野家ルートで大まかに分かれ、さらに各ヒロインにほぼ2つずつエンドが用意されるという構成のおかげだろうか。
そういえばFateも、Fate、UBW、HFの間に重みの差はなかったように記憶している。なおかつHFで総括できていた(?)ところが名作たる所以か。*5
これらは前掲した3のタイプが近いような気もするけど、あまり「True」という言葉に意味はないと思う*6
ので違う分類を考える必要があるかもしれない。
5
完全に好みの問題で話すけど、僕はやっぱりこの「プレイヤーが信じたいものを信じることができる」という点は高く評価したい。そうすることで、真にゲーム体験はプレイヤーのものとなる(ような気がする)。
6 このへん自分でも書いててよく分からなくなってきた
(詩の多重投影、複数解釈可能性の話の時に書いたように、)「複数」と「唯一」なら「唯一」の方が要求されるハードルは高くなる。
どういうことかというと、Trueルートのない複数ルートで構成される作品は、評価にあたってその複数ルートの全てを評価者が好きなように組み替えて解釈することができるけれど、Trueルートありで構成されたゲームではその解釈の自由度がかなり狭まるということだ。
つまり、ある程度好きなように、触りたくないところには触らずに、どのルートに重みをつけるかを自由に選んで評価できる前者に対して、後者ではTrueルートには必ず一定の重みをもって触れなければならない。だって「True」だから。俗に言う「Trueルートさえなければ良いゲームだったよ」は所詮たられば論であって、Trueルートを無視した作品評価は正当性を持たないと僕は思う。
別の言い方をすれば、前者には解釈の自由という逃げ場があるのに対して、後者にはそれがない。
7 このへん自分でも書いててよく分からなくなってきた
前掲した類型のうち、特に4は複数のルートを経由しても結局は「一つの物語」になる。「リトルバスターズ!エクスタシー」という物語はメーカーが作って提示したものだ。
2の場合、例えばまじこいというゲームを想起する時、プレイヤーは同時に成り立たない複数のルートの全てを意識するはずだ。「真剣で私に恋しなさい!」という物語は作品内に存在せず、メーカーはそれを提示しきらない。プレイヤーが全ルートをメタ視点で見た時にそれは現前する。そして、プレイヤーごとに視点のズレがあるから作品の評価にもズレが起こり、その複数解釈可能性が面白みになる。
3は2と4の間であるけれども、僕としては意義が見出せない。言わば両者の悪いとこ取りな感じがする。構造的には4のような「一つの物語」たり得ないし、複数解釈可能性も狭まる。
3におけるTrueルートの価値は、複数ルートの中での「本当の物語」「正史」というもので、個別ルートを「偽史」として従属関係を強いる。同時に、「正史」であるためには最低でも他に1つの「偽史」がなければならない、という意味で個別ルートを必要とする。このように、3においてはTrueルートと個別ルートの関係は捻れている。
8
以上のように、Trueルートは「一つの物語」or「本当の物語」であるために解釈の自由度に欠け、それが評価にあたってのハードルを上げている。
Trueルートは「これでこそTrue」と言えるようなものでなくてはならない。たとえ自分が他の解釈が好きであっても、確かに一つの解釈として強い力を持つような。ばっさり言うと、Trueがしょぼかったら嫌でしょ? 普通の感覚として。
だから総括系Trueルートを作るなら、それこそリトバス並みのクオリティが要求される。個別ルート全部引っ張るだけのパワーがないといけないんだから。本来ならADVゲームの強みや魅力であるはずの複数解釈可能性を捨ててまで「一つの物語」or「本当の物語」にするんだから、力量がないとできないことなんだよね。
9
ぶっちゃけSe・きららがシナリオ面で批判されてたのはそこだよね。よく読めば、個別ルートも全て「本当にあったこと」ではあるんだけど、やはり構造上「リ・Se・きらら」が持つ重みは個別より大きいわけで。そのTrueルートが個別ルートを牽引するだけの力を持ってないことが問題だった。
10
素晴らしき日々のラストは全ルートを総括してはいる。してはいるんだけど、個別ルートの価値、重みを全く下げずに総括をしてるのがグッド。SCA-自さんがどういう思いでそうしたのかは分からない。でも結果として個別ルートの重みが守られたことは嬉しいね。
余談
- 今思い出したけど、リトバスEXってTrueの後にも分岐があったような
- だとすると総括系の例としては弱いか? でも総括してることは確かなんだよな
- 「一つの物語」であってもテキスト・演出レベルでの「解釈の自由」はある。それはゲーム以外の作品と同じ
- それをルート構造レベルでの「解釈の自由」とどう比較検討するかが今後の課題か
- メーカーがTrueと提示したものすら相対化して「せっかくだから俺はこのルートを『本当の物語』だと信じるぜ!」という漢らしい生き方もあるなあ
- それこそ「お前の人生だって、本物だったはずだろ!」ということで
- ただし、やっぱりパブリックな評価、批評をするならその手の個人的な重みづけは除かないと議論にならない罠
- 僕は基本的にメーカーが提示した構造的重みづけに則って評価する立場を取る
- 複数ルートをもう少し細かく弁別して、Trueと明示していないけど明らかに重要なルートを持ったゲーム、構造的な重みが完全に平等なゲーム、とかで分けた方がいいかなー 程度問題になりそうではある
- あと個別ルートのメインシナリオ/サブシナリオをTrue/not Trueと表記する場合の「True」にはあまり意味がないな。そういう意味ではFateを3に分類するのはやはりやめた方がいいような気がしてきた
- 抜きゲーでTrueルートがある作品を知らない
- ハーレムルート=True説
- ハーレムルートにシナリオロックかかってるゲームは散見されるので、構造的な重要度が高いということはがんばれば言えそう
- ハーレムが「正しい」とかハーレムで「全ルートを一つの物語に総括する」ゲームの事例があって初めて「ハーレムルート=True」と言えそう
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*1:最初は「最近〜よく見られる」と書いてたけど、認識を改めた
*2:共通ルートと個別ルートで示された謎が回収されて話が盛り上がるという意味で構造的に「重要」ではあるものの、個別ルート全てがラストルートのために存在するという従属関係はないし、「正史」でもない
*3:これでまじこいSがまじこいのどれかのルートを正史として続編を描いてたら笑う。なんとしてもこのへんの論はSが出るまでに書かなければ……!
*4:その筋でいくとサブキャラルートにも簡単なものでいいからスタッフロールくらい用意してやるべきなんだよなー シナリオ終了時にホワイトアウトしてタイトル画面に戻る演出はいかにもサブって感じがしていまいちだった
*5:プレイから時間が経ってしまって、HFがちゃんとしたFate/stay nightの総括を行えていたかどうか覚えていない
*6:理由としては、そのままだと悲しすぎるのでグッドエンド付けました、だったような。どこかで月姫のルート制作についてのインタビューを読んだような気がするのでまた探しておくか